第36回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)の各賞が、先月27日の配信番組および28日付の紙面で発表されました。動画や紙面でお届けできなかった受賞者、受賞作関係者のインタビューでの喜びの声を、あらためてお届けします。

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助演男優賞の磯村勇斗(31)は、前年来の有力候補として堂々の断トツ得票での受賞となった。

「間もなくデビュー10年になるんですが、今までまいてきたタネがようやく、少しだけ芽が出てきた気がします」

控えめに感想を語るが、役に取り組む熱量は想像を超えたものだった。対象作の1本「月」は重度障害者施設で起きた実際の殺傷事件を元に描かれ、演じたのは正義感や使命感を増幅させる余り凶行に及ぶ施設職員役だった。

「お話をいただいた時から、自分ではこれはやるしかないと思ったんですが、尋常じゃない犯行だし、事件の被害者もいらっしゃるわけで、周りの心配の声もありました。やるかどうかの審議で1カ月くらいかかりましたね。ただ、僕はさとくん(役名)の心の奥がどうしても知りたかったんですね」

撮影現場でも入念な役作りが続いた。

「石井(裕也)監督が横にいて、実際の事件や辺見庸さんの原作、そのすべての情報を共有して理解しながら、さとくんという人物を創り上げていきました。監督からはとにかく普通の好青年でいてほしい、と。実は『普通』が一番難しいんですね。頭には現実の死刑囚のイメージが間違いなくあるわけですしね。役に入り込んで行って、実際に危ないなと思う瞬間がありました。さとくんに同化して自分が壊れてしまうような感覚があったんですね。そこで、何とか踏みとどまるといいますか。撮影中はその出たり入ったりの繰り返しでしたね。1カ月まるまるこの作品に掛かりきりでしたが、だからこそ内面までしっかり作り込めたんだと思っています」

そんな薄氷の演技が、観客の観客の感情移入を誘い、行き過ぎた使命感の恐ろしさを印象づけた。これも対象作となった「正欲」では、「人に言えない嗜好(しこう)」を持った男性を演じた。

「『月』が終わって5日後に撮影に入ったんですよ。これも今まで演じたことのない役でどうしてもやりたかった。実は、自分の中にまだあった、さとくんの残りかすみたいなものをうまく生かせる役だという確信もあったんですね。もともとイバラの道を行くのが好きで、無理じゃないかと言われることを短期間でものにすることに喜びを感じるんですね(笑い)」

映画好きの父親のレーザーディスクコレクションに幼少期から接していたこともあり、映画への目覚めは早かった。中学では自主映画を製作した。

「『アルプスの少女ハイジ』を地元に置き換えた『沼津の少女ハイジ』という作品でして(笑い)。発達した日本の医療のおかけでクララが立つところから始まるストーリーなんですよ。当時は学校にいじめがあって、『-ハイジ』へのオマージュとともに、そんな校内の問題にもスポットを当てる題材でした」

高校では劇団に入り、大学を2年半で中退して俳優の世界に飛び込んだ。

デビュー作は2時間ドラマ「事件救命医2」(14年)だ。当時から、役作りへの思いは強く、気負いもあった。

「バスジャックのテロリストの役でした。今思うとデビューということもあったのか、作り込みすぎていた気がして、やけにこってりした芝居をしていたと思います。トータル3分くらいしか映らない役だったんですけどね」

NHK連続テレビ小説「ひょっこ」(17年)でヒロインの相手役を務めたのは、「仮面ライダーゴースト」で注目された直後だった。

「『ライダー』の感じが残っていたんですね。演出の方から『ちょっとかっこつけた感じになっている』とずいぶん注意されました。あれから、自分の余計な部分を捨てていくという感覚を身に付けていけた気がします。それまでも、完成品を見て、自分でも浮いているなあと思うことありましたし。自分も作品に溶け込めたという実感が持てるようになったのは、藤井道人監督と出会えた『ヤクザと家族』からですね。(主演の)綾野剛さんとともに、寄り添って教えていただけたのが大きかった」

「覆面系ノイズ」(16年)では短期間でドラムを習得するなど、幅広い役をこなし、オールラウンダーの印象がある。

「年齢的にもそろそろ男としてのシブさが出るような役もやってみたいですね」

唯一の弱点がホラー系の作品だという。

「ゾンビ映画は大好きなのでいいんですけど、日本のホラー映画はちょっと無理なんですよ。呪われちゃうとか、おはらいとか、よく言うじゃないですか。あれ怖くてダメですよ」【相原斎】

 

◆磯村勇斗(いそむら・はやと) 1992年(平4)9月11日静岡県生まれ。「仮面ライダーゴースト」(15年)で注目。「きのう何食べた?」や「東京リベンジャーズ」などで印象を残し、昨年は「最後まで行く」「波紋」「渇水」「月」「正欲」と続いた。

◆月 元有名作家の堂島洋子(宮沢りえ)は、夫昌平(オダギリジョー)と二人暮らしする中、重度障害者施設で働き始めた。絵が好きなさとくん(磯村勇斗)作家を目指す陽子(二階堂ふみ)ら同僚と出会うが、他の職員による入所者への暴力を目の当たりにする。

◆渇水 市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、同僚の木田(磯村)と料金を滞納する家庭や店舗を訪ね、水道を止めて回っていた。妻子ともうまくいかず渇いた日々の中、幼い姉妹と出会った岩切は、自分の子どもと重ね合わせ、救いの手を差し伸べる。

◆正欲 不登校息子の世間との断絶を恐れる検事の啓喜(稲垣吾郎)。秘密を抱える販売員の夏月(新垣結衣)。夏月の同級生で、秘密を共有する佳道(磯村)。心を開かない大学生・大也、その同級生の八重子。無関係に見えたそれぞれが、ある事件で交差する。