東京映画記者会(日刊スポーツなど在京スポーツ紙7紙の映画担当記者で構成)主催の第66回(23年度)ブルーリボン賞が23日までに決定した。
「ゴジラ-1.0」が作品賞、神木隆之介(30)の主演男優賞、浜辺美波(23)の助演女優賞の3冠を制した。また吉永小百合(78)が、00年「長崎ぶらぶら節」以来23年ぶり3度目の主演女優賞に輝いた。20年のコロナ禍以降、見送ってきた授賞式を、2月8日に都内で開催する。
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佐藤浩市(63)が「愛にイナズマ」「せかいのおきく」で、助演男優賞を受賞した。1981年(昭56)に「青春の門」「マノン」で新人賞、02年には「KT」「うつつ」で主演男優賞を受賞しており、40年あまりで個人賞3冠を達成。「コンプリートだね」と笑みを浮かべた。
没後10年を迎えた父の三國連太郎さんも、51年の新人賞を皮切りに60、89年と主演男優賞を2度、79年に助演男優賞と3冠を達成している。佐藤は「おやじも、そうなんだ…感慨深いね」と喜びをかみしめた。そして「40数年前にブルーリボン賞を初めていただいたのが、三國が取った新人賞だった。新人は、その時でなければいただけない。おやじが取った賞というのが、うれしかったことを、ふと思い出した」と、集まった記者を前に相好を崩した。
23年は、主演映画「春に散る」も含めると出演した9本の映画が公開された。その中でも、受賞対象作となった「せかいのおきく」(阪本順治監督)では浪人を演じ、かわやで語り合う場面では下肥買いを演じた息子の寛一郎(27)と真っ向から芝居をぶつけ合った。「愛にイナズマ」では、主演の松岡茉優(28)演じる映画監督デビュー前に全てを失った娘が、自分しか撮れない映画を撮ろうと向けてきたカメラを前に、ひた隠しにしてきた真相を語るダメな父親を演じた。「前、後半が全く違うテイスト感で、お芝居がおもしろい。映画として、ちょっと抜けていると思った」と絶賛した1本だった。
「演者が作品に対して言うのは、どうかと思うんだけど…」と言いつつも、自分に取って特別な作品となった2作での受賞が心底、うれしい。「せかいのおきく」について聞かれると「若い子の中で、映画にとって自分がスパイスになれば、うれしいなと思った作品。その中で、息子との芝居もあった。何百万人が見てくれたような作品ではないけれど、短編から始まって長尺に達して出来上がったとは思えない完成度の、おもしろい作品」と評した。
「愛にイナズマ」については、石井裕也監督(40)が、22年2月に2週間で脚本を書き上げたことを踏まえ「意趣返しのように、やってやろうじゃないかと思った作品。家族のシーンで、みんなと絡んだ時から絶対、おもしろくなると確信を得られた芝居ができた」と、喜びが口をついて出た。
喜びのあまり、石井監督には電話で直接、受賞を祝福したという。「お互い、いくつか映画賞をいただいた中で、これまではメールで『おめでとう』とやっていたけれど、今回、ブルーリボン賞をもらえて、生で電話して直に『おめでとう』と言いたいと思った。電話の向こうで(石井監督の)子どもの声が聞こえて、煩わしそうに電話を取ったから、悪かったなと思った」と笑った。
20年周期で3冠を獲得しており「次(の受賞)は80いくつかな?」と笑いながら口にした。その上で「80代まで、もし自分が継続できる意思と意欲があって、カメラの前にいられたなら、それだけで自分に賞をあげたいです。もし、そうであればね」と、自らに言い聞かせるように続けた。そう口にした視線の先には、父であり俳優としての大先輩でもある、三國連太郎の背中がある。「おやじは亡くなる前、現場のことしか言わなかったもんな。舞台もやったけれど、あの人は映画が好きだったし、映る…自己確認できるのが楽しみだったんだよね」。
三國さんは13年4月に90歳で亡くなるまで、カメラの前の芝居、映画にこだわり続けた。その三國さんが、最も愛したのがブルーリボン賞だった。「賞は、よすがになるから、つらい…ありがたみがあっても過去だからと、三國は賞をしまったんだろうけど、三國はいろいろな方(女性と)暮らしていた中でも、アパートにブルーリボン賞は置いていたな。不思議とイメージはありますよ」と笑いながら振り返った。
記者の間からは、寛一郎の今後の活躍と佐藤家3代での受賞を期待する声も挙がった。寛一郎は、17年の映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で俳優デビューしており、映画デビュー2年というブルーリボン賞新人賞の規定からは外れており、佐藤は「もう、新人はないんで…」と苦笑した。それでも「彼が、そう思ってくれると、うれしい」と口にした。その上で、改めてブルーリボン賞個人賞3冠を口にした40年という時の流れの、意味を語った。
「良い人、良い本、良い作品に出会っていくしかない。偶然でしかないし…でも、自分が作っていく偶然でもある。自分が導いたもの、導かれたもののなかで出会えたことで、自分が一回り、二回り、大きくなれるか、という出会い。僕は、その運が、この40何年の中であったから今がある」
そうした出会いの中の1人、石井監督と2月8日の授賞式では、同じステージで喜びを分かち合う。同監督が取材の中で「授賞式が終わったら、飲もうぜ(と言われた)」と、授賞式後の“祝宴”を明かしたと伝え聞くと「そうですね…飲みに行くでしょうね」と、口元に笑みを浮かべた。【村上幸将】