映画「国宝」で歌舞伎指導を務めた中村鴈治郎(66)がトークイベントで、同作撮影のことや、出演した吉沢亮、横浜流星について語った。
作家吉田修一さんが「国宝」の原作小説執筆に取りかかるころに、共通の知り合いに紹介されて会ったという鴈治郎。吉田さんが劇場や楽屋に出入りできるように黒子にして、歌舞伎を舞台裏からもつぶさに観察してもらった。そして、当初は予想していなかった映画にまで関わることになった。
李相日監督から、歌舞伎役者でない俳優で映画を撮りたいという話があり、歌舞伎指導の依頼があった。鴈治郎は「は? と。俺、国宝は作れませんよと言いました」と話した。原作から、どういう物語になるかは分かっているため、かなりの驚きと戸惑いだったようだ。それでも引き受けた鴈治郎は、出演が決まった吉沢と横浜を「まずは日本舞踊の稽古から」と日本舞踊を習わせたという。
鴈治郎は「最初の稽古の上がりを見て『これはダメだ』と思いました」と素直に語った。それはそうだ。何年もかけて体に染みこませていくものが、いきなり習得できるわけはない。
しかし2人は、歌舞伎役者を演じるだけでなく、キャラクターの心を繊細に表現するまでに至った。鴈治郎は「亮と流星、まあへこたれなかった。日々の研さんでしょうね」と、尊敬の気持ちを込めた。
さらに、歌舞伎役者にはできない芝居についても語った。「(踊りの中で)2人がちょっと目配せをしたりする場面がある。歌舞伎役者は役になってしまうから、ああいうことはできない。でも2人はそこに、喜久雄と俊介(役名)をかぶせてくるんです。それは僕らにはできない」と感心した。
歌舞伎指導に加え、出演もした鴈治郎。映画に関わった日々を振り返り「いつの間にかどっぷりつかってしまった。間違いなく沼でした。今になって、すごいものに関わったという実感があります。ここまでヒットするとは思っていませんでした。こんなにお金、時間かけていいのかなと。赤字じゃないかなと思いました」と苦笑いしていた。
トークイベントは、来年の米アカデミー賞国際長編映画賞の対象となる日本代表作品に選ばれたというニュースの数日後に開催された。その後も、客足は衰えることなく、公開から3カ月で興収133億円を超えた。関係者も驚くほどのヒットを記録しているが、鴈治郎が見てきた吉沢と横浜のへこたれなさが、ヒットの1つの要因なのだとあらためて感じた。【小林千穂】



