馬が育つ理由の1つに、人間同士のコミュニケーション。今回の「ケイバラプソディー~楽しい競馬~」は美浦所属のノーザンファーム生産馬の前線基地、福島県天栄村にあるノーザンファーム天栄を取り上げる。

現役ではイクイノックス(牡4、木村)、過去にはアーモンドアイなど数多くの馬がここから名馬へと上り詰めた。そのわけとは…。東京の阿部泰斉(たいせい)記者が現地に行って秘密を探った。

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円滑な人間関係が名馬を育てる。ノーザンファーム天栄の施設の周りは自然があふれ、鳥の鳴き声以外の音は聞こえない。しかし、厩舎地区の活気は違った。

「こんにちは!」。洗い場にいたスタッフが笑顔で声をかけてきた。500キロ近い競走馬の世話をしながら。その後もすれ違うスタッフの人々は皆、あいさつを欠かさなかった。TBS系ドラマ「半沢直樹」の劇中で、主人公があいさつの大切さを説いたシーンを思い出した。「倒産する会社は仕事に誇りや自信がなくなり、あいさつをしなくなる」。ここはまさにその反対。勢いがある組織の証明だと感じた。

声かけを率先するのは木実谷雄太場長。取材対応の合間には、スタッフに対して積極的に話しかけていた。競走馬を連れてきた若手のスタッフに対しては「ありがとう。頑張ってね」とさりげなく。年上のスタッフには「体、大丈夫ですか?」と自然な会話の流れで言葉が出ていた。競走馬の取材後「馬づくりにおいて、人間関係の良さというのは関わってくるのでしょうか」と、同場長に質問してみた。「それはもちろんだと思います。僕が1頭1頭を世話しているわけではなくて、接してくれているのはスタッフですから」。年齢の上下や立場の違いは関係ない。木実谷氏が場長になる前から、同牧場ではスタッフ同士の信頼関係を築き上げてきたという。

ここで育った馬だからこそ、今後の活躍が期待される。9月にデビュー予定のドゥラメンテ産駒コンドライト(牡2、菊沢)は目についた1頭で、好馬体を披露。母は17年NHKマイルC覇者のアエロリット。「跳びが大きい馬。ゲート試験後も順調ですね。アエロリットの初子ですけど、サイズ感は十分。成長していってほしいですね」と期待を込めた。初めて訪れたノーザンファーム天栄。そこには1つの魅力があった。私もまず、しっかりとしたあいさつを心がけようと思う。

◆ノーザンファーム天栄 福島県岩瀬郡天栄村にある競走馬の育成施設。主に美浦所属のノーザンファーム生産馬が在厩する。高低差約36メートルで長さ900メートルの坂路コース、1周1200メートルの周回コースなどを備える。イクイノックス、ソングライン、スルーセブンシーズなど春のG1を盛り上げた古馬に、レーベンスティール、サスツルギなど秋の活躍が期待される3歳まで数多くの競走馬が調整している。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)