ユダヤ人虐殺の首謀者とされるハイドリヒは戦時中の42年に暗殺された。原作の「HHhH プラハ、1942年」(ローラン・ビネ著)は亡命先の英国から潜入したチェコ軍人の大胆な暗殺計画を描いたが、映画ではハイドリヒの成り上がりのくだりが興味深い。
女性問題で海軍を不名誉除隊となった彼は、没落貴族出身の妻からナチズムを吹き込まれ、ナチ党でめきめきと頭角を現す。短気で粗暴なエゴイスト。恩人の妻の心まで踏みにじるどうしようもない男なのだが、執着心と冷酷さがナチスの時代にフィットし、NO・2のヒムラーに重用される。
「ゼロ・ダーク・サーティ」(12年)のジェイソン・クラークが見事なばかりに嫌な男に成り切っている。妻役ロザムンド・パイクはゆがんだプライドとあきらめをにじませ、ナチズム醸成の背景が見えてくる。
結果は分かっていても、暗殺計画の曲折はハラハラさせる。実行者と協力者女性の刹那的な恋は、ハイドリヒ夫妻とは対照的に自然光で美しく見せる。ドキュメンタリー出身のセドリック・ヒメネス監督は淡々と史実に重ねるように進めながら裏側の人間ドラマに思いを込めている。【相原斎】
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