幾多の苦難を経て、今なお残る課題と向き合いながらも、東京オリンピック・パラリンピックの開幕が近づいてきた。日刊スポーツでは連載「東京五輪がやってくる」を1日からスタートさせる。第1回は陸上界のスーパースター、ウサイン・ボルト氏(34)からのメッセージ。五輪では金メダル8個を獲得、男子100メートル、200メートルなどの世界記録を持つ。書面インタビューに応じ、コロナ禍での大会へ向けた思い、近況などを明かした。【取材・構成=上田悠太】

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数年前まで、スプリンターと世界中の視線を独り占めしていた。その比類なきレジェンドは、東京五輪へワクワク感を隠さない。

ボルト氏「本当にエキサイティングだ。パンデミックで不確定な要素があるが、開催できることになれば、日本の人々なら、素晴らしいオリンピックを開催してくれると分かっているからね」

とはいえ、今、日本は五輪に対する世論の目が厳しい。現実を受け止めながら、日本のファンにメッセージを送った。

 ボルト氏「世界的な感染の困難な状況を考えれば、無理もない。五輪開催が前向きに進んでいって、日本の皆さんが、アスリートが競い合ったり、自身や国に栄光をもたらすことで、いくらかの救いを見つけられたらいいなと思っています」

日本には何度も来ている。どんな印象なのか。

ボルト氏「いつも来日した時は最高の時間を過ごせているよ。みんながたくさんの愛をくれるんだ」

16年リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレー決勝で、アンカーとして日本と金メダルを争った。日本で期待している選手はいるか? 具体名こそ挙げなかったが、このように言った。

ボルト氏「日本には常に素晴らしいアスリートがいる。だから、彼らの進歩を見て、新しいアスリートを発見すると興奮するんだ。まさしく東京五輪でも、いろんな競技で、新世代のアスリートを見たいね」

陸上はもちろん、それ以外の競技なら、競泳や体操に特に興味があるという。08年北京五輪から3大会連続で出場し、100メートル、200メートルとも3連覇するなど8個の金メダルに輝いた。世界最高の舞台を勝ち続けるのに必要な資質は?

ボルト氏「勤勉(Hardworking)、規律(Discipline)、勝利への渇望(Hunger for winning)だ」

今、スプリント界には「ボルト級」に絶対的に突き抜けた存在がいない。現役復帰の可能性については?

ボルト氏「NO」

一言で完全否定した。その上で、こんな質問もぶつけてみた。ともに世界記録の自己ベストは100メートルが9秒58、200メートルが19秒19。今、100メートルを走ってみたら、何秒で走れるのだろうか?

ボルト氏「今度、トラックで(師事していた)ミルズコーチのところに行ったら、走ってみて、教えるよ」

昨年には長女が誕生。「オリンピア・ライトニング」と名付けた。数々の大会で優勝、弓を引く代名詞と言える「ライトニングポーズ」でも知られる男は今、父となり、娘と過ごす時間がとにかく最高だ。

ボルト氏「娘が笑顔で楽しんでいる姿を見るのが、最近は一番楽しいことなんだ。(将来)彼女がやりたいことは何でもサポートするよ」

スプリンターとしては17年世界選手権で引退した。その後、プロサッカー選手転向も目指し、複数のクラブの練習に参加したが、契約には至らなかった。次なる目標を聞いてみた。

ボルト氏「スポンサーの義務を守りながら、最近はジャマイカで私の財団での活動を重視しています。あと同時に現在、音楽プロデューサーをしています。その私の舞台で、さらにレゲエ、ダンスホールミュージックを強調していきます」

やはり規格外。そして夢を追い続けている。東京五輪ではどんなスーパースターが誕生するのか。

 

◆ウサイン・ボルト 1986年8月21日、ジャマイカ・トレロニー生まれ。少年時代はサッカーやクリケットに打ち込み、13歳から陸上を始める。02年世界ジュニア選手権200メートルを史上最年少15歳で優勝。04年に17歳で19秒93のジュニア世界新をマーク。世界選手権は100メートル、200メートル、400メートルリレー合わせ、史上最多の11個の金メダル。100メートルで9秒58、200メートルで19秒19、400メートルリレーで36秒84の世界新記録を持っている人類史上最速スプリンター。196センチ。