東京五輪のマラソンは7日に女子、8日に男子が札幌市の大通公園発着(7日は午前6時号砲、8日午前7時予定の男子は未定)で行われる。19年秋に国際オリンピック委員会(IOC)が暑さへの懸念から、開催地を東京から札幌に変更。変則的な周回コースで1周目に市中心部の約20キロを走り、2~3周目は北半分の約10キロを回る。多くの選手が意識するのは北大構内にあるクランク(ます形道路)。ほぼ直角の7つの角を3度通過する。日本勢最後のメダリストである、04年アテネ五輪金メダルの野口みずきさん(43)がポイントを解説した。

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■頭使う難コース…ストレス避けて

平地で高速レースと予想されていますが、とても頭を使う、難しいコースだと感じています。私もクランクは海外の大会で経験し、外国人選手と走りながら「えっ、歩道まで上がるの?」と上手な位置取りに驚いたことがあります。今回は大学構内で歩道を使うようなことはないですが、攻略は重要になると思います。

20キロ、30キロ、40キロ手前と3度やってくるクランク。1周目は集団で通過すると予想され、他の選手の位置、走り方を把握することが重要です。私であれば20キロ過ぎからペースを上げて揺さぶり、2周目の通過時には自分の走りやすい位置で最短距離をとります。集団で前や横に人がいると、曲がる際に一定のリズムが刻めず、変な着地が混ざるとストレスになる。向こうずねや足の裏などに負荷がかかり、3周目には足首にダメージが来てしまいます。

私が走ったアテネの頃のアフリカ勢は「生粋のマラソン選手」が多かった印象です。今はトラックでスピードを磨いた選手が集い、同じ国の仲間で引っ張り合うこともあります。当時も「ラスト勝負は怖い」と思っていましたが、その傾向はさらに強まっています。

もちろん日本勢は、勝つために仕掛けを早くするでしょう。42・195キロを走るだけでかなりの体力を使いますが、そこに細かなストレスが加わるかは自分次第。事前に位置取りの戦略を立てることはもちろん、臨機応変な対応力が、レース全体のプラン遂行に大きな影響を及ぼすでしょう。

 

■前田穂南「最短距離の位置取りが大事」に

<選手の反応>

日本勢も多くが「7つの角」を意識している。5月に行われた五輪テストイベントで、女子の一山は「カクカクしたコースという印象」。ハーフマラソンで通過は1度だけだったが、前田は「すごく曲がり角が多かった。最短距離の位置取りが大切になってくる」と注意点を挙げ、鈴木は「後半の曲がり角は、苦しいところで案外気持ちが切り替わる」と前向きに捉えた。

男子は服部だけがテストイベントを走り「(事前に)1人で走った時に出力を下げたり、上げたりするのが苦になった。集団で走る時の(1人との)差を感じたい」と事前にテーマを設定していた。故障のため下見にとどめた中村は「北海道大学のコーナーは、対策をしっかりと練る必要がある」。五輪が引退レースとなる大迫は米国で調整してきた。女子は17年ぶり、男子は92年バルセロナ五輪銀メダル森下広一以来、29年ぶりのメダル獲得を狙う。

 

■ケニア勢が優勝争い中心 女子はコスゲイら、男子もキプチョゲ連覇狙う

<展望>

女子は世界記録(2時間14分4秒)保持者のコスゲイらケニア勢が優勝争いの中心。イスラエルのサルピーター、エチオピア勢にも力がある。日本勢は一山が1月の大阪国際マラソン、5月のテスト大会優勝。鈴木も順調に仕上げた。前田は直前合宿で「順調じゃなかった」と明かすが、暑さへの強さに定評がある。04年アテネ五輪以来のメダルへ気候も味方につけたい。

男子も世界記録(2時間1分39秒)を持つキプチョゲ(ケニア)が2連覇へ充実。現役最終レースと表明する大迫は米国で調整し、仕上がりやレースプランはベールに包まれている。中村は右足甲、服部も足の痛みが回復し状態は上向きという。29年ぶり表彰台へ的確な状況判断も鍵を握る。