侍ジャパン井端内野守備走塁コーチは5日、横浜スタジアムのスタンドにいた。米国-韓国戦の視察。前夜に準決勝韓国との決戦を制し、この試合の勝者と、決勝で相まみえる。米国ベンチを見つめ、決勝トーナメント初戦でのサヨナラ勝利直後を思い出していた。「誰も動かず、ジッと日本ベンチをにらんでいた。本気になったと思う」。野球の母国が決勝に進めば、容易な戦いにはならないと予感していた。

この韓国戦で、米国の変化を十分に感じ取った。それまでは、守備で無走者時に左打者を追い込むと、三塁手をやみくもに二遊間にシフトさせていた。だが打力がない下位の打者には三塁の位置にとどまるようになっていた。攻撃時には、走者がスタートを切る動作を繰り返し、バッテリーに圧をかけた。細やかさが帯びるようになった。

決勝は日本が勝者となった。終盤までは一進一退も、8回に米国の守乱に乗じて2点目を奪った。“一夜漬けの細かい野球”に対しては、伝統的にミス削減を徹底する日本に利がある。米国が本気になっても、日本が総合力で上回った。

ただし、本気になったのは超一流の米国ナインではない。主力はNPBで活躍するオースティン、マルティネスに、プロスペクトで将来を嘱望されるもののメジャー経験のない3番カサス。投手の左腕部門でベストナインに輝いたゴースは元外野手。メジャーでも1年間、レギュラーを張ったが、投手ではマイナー暮らしが続く。しかし、決勝トーナメント初戦での対戦では150キロ台後半を連発し、1回1/3を封じ込まれた。ベスト布陣ではないが、日本との実力差は決して開いてはいなかった。

WBCは23年開催が見込まれる。06、09年大会の連覇で幻想に陥りがちだが、メジャーリーガーの出場割合が大会ごとに高まり、13、17年大会の日本の4強進出は、善戦ともいえる。むしろ17年の準決勝米国戦の1点差負けはスコア以上の実力差を突きつけられた。

勝たなければいけない力関係と重圧の中で、5連勝で金メダルを収めたのは、誇れることだ。だが現状、真の世界一に値する大会はWBCだ。今回は、ペナントを初めて中断する協力態勢を敷いたが、挑戦者となるWBCでは、さらなる方策を講じなければならない。

五輪前の球宴を例年通り2試合実施した。だが侍ジャパン関係者からは飽和状態のスケジュールによる疲労も考慮し「1試合でもよかったのでは」との声も出た。逆に侍ジャパン対NPB選抜、対NPB外国人選抜と柔軟な発想があってもよかった。

稲葉体制では4年間で36試合を戦ったが、次期監督は準備期間がない中でWBC本番を迎える。既存から脱しなければ世界一は見えない。「世界に日本の強さを示したい」。稲葉監督の意思を継承し、NPBを中心に球界全体で次の侍ジャパンを本気で支えなければいけない。【広重竜太郎】(おわり)