大本命の喜友名諒(31=劉衛流龍鳳会)が、ダミアン・キンテロ(37=スペイン)に勝利し、金メダルを獲得した。決勝で選択したオーハンダイの演武で、体の軸がぶれることなく。4連続の鋭い蹴りも成功。28・72点をマークし、スーパーリンペイの演武で27・66点だったキンテロを圧倒し「(亡き)母に優勝したよと報告したい。すべてに感謝したいと思います」と目頭を押さえ、男泣きした。

「最後の金メダル空白県」だった沖縄に、沖縄発祥である空手の競技者として、初の栄冠をもたらした。東京五輪での優勝は、2年前に57歳で亡くなった母の願いでもあった。「約束をしっかり果たしたい」と胸に刻み、悲願をかなえた。喜友名は「沖縄の子供たちにも、夢をあきらめず、追いかけ続ければ達成できることを知ってもらえたと思います。大きな目標だったり、希望を持って、自分の道に進んでほしいなと思います」と声をふるわせた。

世界選手権3連覇中で、全日本選手権は前人未到の9連覇中。18年2月を最後に、国内外で3年以上無敗を継続する。世界のトップ選手が参加するプレミアリーグでは12年9月から20年1月まで19度優勝してギネス記録に認定された。昨年1月の同リーグパリ大会では史上初めて、審判の1人から10点満点の評価が与えられた。

東京五輪1年延期が決まったあとは、土台作りにあらためて着手し、さらなるベースアップを図った。表現力向上を目的に琉球舞踊を取り入れた稽古も、19年暮れから継続的に行ってきた。「柔らかい膝の使い方や、力の入れ方の強弱、目線の使い方などは、空手に生かせる」。同じ琉球をルーツとする空手と伝統舞踊をを融合させ、ダイナミックな動きの中にしなやかさを織り交ぜた。

武道家として心に刻んできた言葉がある。「一眼(いちがん)、二足(にそく)、三胆(さんたん)、四力(しりき)」。古くから日本の武道全般に伝われる金言で、最も重要なのは、相手の思考や動きを見抜く眼力、そして次が足さばきで、3つ目はどんなことにも動じない精神力、そして最後は力強さという意味を持つ。そのすべてを兼ね備えた、最強の金メダリストが誕生した。