国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67)が8日、ドイツから来日した。定期航空便で東京・羽田空港に到着。抗原検査を受けた後、隔離先および東京五輪期間中に滞在する都内ホテルに入った。特例措置で3日間の待機後に活動を始める。東京都に緊急事態宣言が再発令されて迎える大会の観客に関しては組織委員会、政府、東京都、国際パラリンピック委員会(IPC)との5者協議にリモート参加。23日の開幕に向けて最終準備に当たる。

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東京五輪を主催するIOCのトップが、吹き荒れる逆風の中で来日した。便は非公表ながら、約40人の報道陣が詰めかけた空港にバッハ会長が降り立つ。約8カ月前のようにチャーター便ではなく定期便だったものの、入国は特別対応だった。抗原定量検査で陰性が確認された後、到着ロビーには姿を見せず。英国の女子サッカー代表などが一般ルートで入国していた中、VIP動線から都内ホテルへ向かった。着陸2時間後の午後2時22分には到着。専用車の窓を開け、厳重なマスク姿で左手を挙げた。

その5時間半後、リモートで5者協議に参加した。冒頭「IOC関係者のワクチン接種率は100%に近い。責任は果たしている」と自信を見せると「緊急事態宣言のインパクトが五輪に何をもたらすか意見を聞きたい」。4月の会見では当時3度目の緊急宣言に対し「東京五輪とは関係ない」と発言して国民の反感を買ったが「(日本側の)どのような決定でもサポートしたい」と理解を示した。

タイミング悪く? 東京都に4度目の緊急宣言が出ることが発表された日と重なった。隔離は、この日を0日目として9日から3日間。4日目の12日から11日間は五輪特例措置で行動制限が緩和される。専用車両による移動、事前に用務先を記した活動計画書の行程を守れば活動が可能。5月に2度目のワクチン接種を終えており、国のルールも守っているが、特別扱いの不満を持つ国民から歓迎の声は上がらない。

その期間中、組織委との最終準備はもちろん、五輪・パラリンピック期間中の休戦を呼びかけ国連に採択された「五輪休戦決議」の期間初日の16日には、被爆地の広島市を訪問する方向で調整中だ。ただし、緊急宣言が出た後の県境をまたぐ移動や、今なお記録的な大雨が続いている中での訪問が適切かどうか。再考を求められる可能性もある。

当初は5月の聖火リレー(広島)期間中や6月の入国を模索していたが、新型コロナウイルスの再拡大や宣言の延長などで見送っていた。17日からはIOC理事会と総会を開催するが、五輪開幕まで15日とは思えない雰囲気の中での、お出ましとなった。【木下淳】

◆トーマス・バッハ 1953年12月29日、西ドイツ(当時)生まれ。76年モントリオール五輪フェンシング・フルーレ団体で金メダルを獲得。弁護士をしながらスポーツ界で活躍し、81年にIOCアスリート委員に就任した。91年にIOC委員となり、96年から同理事。00~04年と06年から同副会長、13年9月のIOC総会で会長に選出された。5月には、米有力紙ワシントン・ポスト(電子版)が日本に対し東京五輪を中止するよう促すコラムを掲載し、ここで「ぼったくり男爵」と書かれた。「地方行脚で食料を食い尽くす王族」に例え「開催国を食い物にする悪癖がある」と非難されての“命名”。