「緊張しない方法教えてください!」

日本選手団主将に決まった後のこと。山県とやりとりする中で、1度ならず、2度、そう聞かれた。

おいおい…。3度目となる五輪に出場し、長くトップレベルで戦ってきた男に、平凡な人生を送ってきた記者がアドバイスをできることなどあるわけないだろう…。世界が注目する開会式の選手宣誓を行うにあたり、まさに、わらにもすがる思いだったのかもしれない。とりあえず「大丈夫だ」と励ましつつ、少しでも安心材料になればと、昔のある新聞記事を送った。

1964年(昭39)の東京五輪の開会式で宣誓をした小野喬さん(89)の記事。小野さんも極度の不安と緊張を経て、見事な宣誓をやり遂げた。だから、上がってしまっても大丈夫。そんな思いを込めた。「すごいですね。小野選手の凄さを改めて痛感します」と返ってきた。

もともと人前に出るのは苦手なタイプ。今回の五輪は競技で結果を残したい思いが強く、主将の打診を受けた時も引き受けるか悩んでいた。その大役を全うし、もう緊張のヤマ場は超えたはず。宣誓を終えた後の一安心した表情が印象的だった。これからが本番。100メートルのスタートラインに立った時。もう緊張など無縁なはずだ。【上田悠太】