リオデジャネイロ五輪が閉幕してから、間もなく1年が経過する。現地は今、どうなっているのか? 実は競技施設のほとんどが、その後有効活用されていない。五輪開催前からレガシー(遺産)としての後利用が懸念されていたとおり、問題は山積している。ブラジル在住のエリーザ大塚通信員が7月21、22日にかけて主な五輪施設を回り、五輪公園などの施設の今をリポートする。

■五輪公園(デオドロ地区)→閉鎖■

週末も含めて常に閉鎖されたまま。運営していた民間企業との契約期限が切れた昨年12月から進展がない。公園前で売店を営むシルレイ・サントスさんは「悲しいわ。やっと完成したのに、私たち市民は入ることができないのよ。公園はみんなのものだって市長は言っていたのに…。五輪が終わったら全部放置されたわ」とぼやくばかり。

■五輪公園(バーラ地区)→閑散■

 14施設が集まり、五輪後の選手強化の拠点として期待されていたが、平日は閉鎖されたまま。土日は開放されているが、人はまばら。取材中、バーラ地区では柔道会場だったカリオカ・アリーナでグレイシー柔術の大会が行われ、五輪テニスセンターの練習場で市民が練習している程度だった。

■フューチャーアリーナ→散乱■

五輪ではハンドボールの会場だった。五輪後は解体され、4つの公立学校に生まれ変わることが話題となっていた。しかし、今も会場は当時のまま。会場近くに建材が散乱していたが、作業者は見当たらない。どこの業者が解体を進めるのかすら、まだ決まっていない。

■リオ五輪ベロドローム→火災■ 

自転車競技の会場に使われたが、現在はほとんど使われていない。トラックはシベリア産の木材を敷き詰め選手にも好評だったが、維持費に金がかかりすぎている。走路の傷みを防ぐため常に冷房が作動しており、スポーツ省によると、今年の電気料金は350万レアル (約1億2250万円)が予定されている。そんな折、7月30日に火災が発生した。祭りの際に空に飛ばすちょうちんのような気球がベロドロームの屋根に引火。施設は使えなくなってしまった。

■選手村→ゴーストタウン■

約1万8000人も収容し、施設内には7万2000平方メートルの緑地がある。だが、今も工事が続いていて、入り口はふさがれている。9月から分譲マンションとして入居が始まるが、売れたのは10%未満という。今はゴーストタウンのようで、物件への問い合わせ先に電話してもつながらなかった。

■五輪水泳競技場→露出■

プールは移設されたが、建物は放置されている。五輪時、外観は有名芸術家のアドリアーナ・バレジャン氏が描いたデザイン画で飾られていたが、これは取り外され、骨組みが露出している。

■五輪ゴルフコース→高額■

リオ五輪で112年ぶりに五輪競技に復帰した。現在、毎日使用されている唯一の施設でもある。しかし使用料が410レアル (約1万4000円)と高く、富裕層しか使えない。

■ユースアリーナ→閉鎖■

バスケットボールや近代5種のフェンシング会場でもあった。しかし、五輪後は閉鎖されたまま。コンクリートブロックで、会場へ通じる道が閉ざされている。

 

【総括】主なところを駆け足で回ったが、感じられたのは治安の悪化。特にデオドロ地区は怖く、タクシーでも行けたが、運転手を雇って、写真を撮影する時は必ず近くにいてもらった。リオ市では、今年に入ってから7月22日の時点で90人の警官が殺害されていた。翌日、自宅に帰ると、91人に増えていた。

 もともと行政に資金がなく、首長レベルでの汚職も多い。五輪施設ごとに国なのか、州なのか、それとも民間なのか、管理団体がはっきりしないことも多く、レガシー活用の議論が進まない。施設はそれほど老朽化が進んでおらず、バーラ地区の五輪公園は思ったよりもきれいだった。やはり問題は、いかにレガシーを有効活用するかにかかっている。

 20年東京五輪は、どうなるだろうか。私は日本人だったら大丈夫だと思っている。ブラジル人から見ると、例えば新国立競技場も建設費が高すぎるという指摘があってから結局は変更に転じることができた。治安もいいし、日本人は真面目で信用できる人たちという認識。ブラジルみたいにひどくはならないでしょうね。(エリーザ大塚通信員)