名古屋市の河村たかし市長がソフトボール日本代表後藤希友(20=トヨタ自動車)の金メダルをかじって批判が殺到した問題で、後藤のメダルが新しいものに交換されることが12日、東京五輪・パラリンピック組織委員会への取材で分かった。

交換に関わる費用について組織委は「IOC(国際オリンピック委員会)の負担」と説明。同日に市役所で会見した河村市長は謝罪し、交換費用の負担を申し出ていると明かした。自身の責任の取り方、進退については明言を避けた。

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金メダルをガブリとかんだ名古屋市の河村市長を巡る問題に、とうとうIOCが動いた。組織委員会は「JOC(日本オリンピック委員会)を通じて確認されたご本人の意向に基づき、IOCのサポートで後藤選手のメダルが新しいものと交換する運びとなりました」と説明した。

一連の騒動を招いた河村市長は同日市役所で取材に応じ、「ゴールドメダリストは相当立派な人。その人への配慮がなかった」と改めて謝罪。JOCの山下泰裕会長から「指導を受けた」と明かし、メダルが交換されることについて「そうなるんだろうなぁという感じでした」と受け止めた。「(後藤)本人の意向に沿った形で対応してもらいたい。交換費用は個人で支払いしたいと伝え、会長にお任せしている」と話した。

今回の問題は後藤が金メダル獲得を報告するため、4日に名古屋市役所を訪問した時に起きた。河村市長はマスクを外し、後藤のメダルを許可なくじかにかじる愚行に及んだ。唾液が付着したメダルを拭く様子もなく、そのまま後藤に返却。SNSなどで非難が殺到し、東京五輪メダリスト、元トップアスリートたちからも批判が寄せられた。

問題はそれだけではない。会談中には後藤へ「恋愛は禁止か」「旦那はいるんかね」などセクハラ発言を連発。後藤が所属するトヨタ自動車は「アスリートへの敬意や称賛が感じられない。不適切かつあるまじき行為」と異例の抗議コメントを出し、河村市長の行動に強い不快感を示した。

関係者によると、IOCと最上位スポンサーを結ぶ同社は、直接働きかけて後藤のメダルを交換するようIOC側に求めた。しかし、後藤自身はもともと新品との交換に消極的だった。かまれたメダルはチームでつかんだ思い出深いものだとして拒んでいたが、周囲の説得もあり態度を変更した。その費用はIOCが負担することになった。

名古屋市役所には、今も市長の資質を疑う苦情が寄せられている。その数は4000件以上に上り、今もなお増え続けている。

河村氏は今回の自身の言動について「若い子に彼女おるかね彼氏おるかねと聞くと、リラックスして口数が増える」と振り返り、「相手を和ませるのも市長として重要。認識が甘かったかもしれませんが、セクハラという意識があったら言いません」と反論。今後、市としてハラスメント防止のルールやガイドラインを作ると述べた上で、自身も講習会を受講し改善を図るとした。

集まった報道陣からは進退について問われたが「(辞職の考えが)ないと言うと感じが悪いでしょう。無責任なことは言えません。勘弁させてくれんかな」と明言を避けた。再三にわたる自身の責任に関する質問にはいらだちを見せ「誠に申し訳なかったと、繰り返して言うしかしょうがないでしょ」と投げやりな対応もあった。【平山連】

▼河村氏は4日、後藤の表敬訪問を受けた。金メダルをかけてもらった際、後藤の許可を取らず、マスクを外して金メダルをかじった。同日夜「最大の愛情表現だった」と釈明した。

後藤が所属するトヨタ自動車は5日までに、「アスリートへの敬意や称賛が感じられない。不適切かつあるまじき行為」と異例の抗議コメントを出した。河村氏はこの日、愛知県豊田市のトヨタ自動車本社を訪問。副市長が代理で河村氏の謝罪文書を受付スタッフに渡した。河村氏は「車の中からおわびをしました」とし「金メダルを汚す行為に及び、ご不快な思いとご迷惑をお掛けしました」と陳謝。組織委員会担当者はこの日、「コメントはありません」と反応しなかった。