なでしこジャパン(サッカー女子日本代表)は28日、札幌と宮城での1次リーグ3試合を終えて、東京・晴海の選手村に入った。27日チリ戦に1-0で勝利して8強入り。準々決勝スウェーデン戦(30日、埼玉)に向け調整を進める。涙ながらに勝利を喜んだFW岩渕真奈(28=アーセナル)は、ここまで獅子奮迅の活躍を見せて、地元東京に戻ってきた。私立武蔵野東小で、3年生から6年生までの4年間担任を務めた河村秀樹先生(61)が責任感の強かった岩渕の姿を明かした。【取材・構成=杉山理紗】

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東京のほぼ中央に位置する武蔵野市が、岩渕の故郷だ。縁あって4年間担任を務めた河村さんは、「活発だけど、グイグイ前に出るタイプではなかった」と当時の岩渕を振り返る。同校OBのタレント、ウエンツ瑛士(35)が学校に遊びに来たときは「サインが欲しいけど、恥ずかしくて行けない。先生、代わりにもらってきて」と照れていた姿を覚えている。

一方で競争意識を秘めており、勝負事では力を発揮するタイプだった。6年生の運動会の騎馬戦では、最前線から切り込んで陣形を崩す“FW”を務めた。何人も男の子を倒し、自身が挟み撃ちにあってつぶれても、チームの勝利を喜んでいたという。

その責任感の強さで、今や日本を引っ張っている。決勝トーナメント進出をかけたチリ戦では粘り強いキープでFW田中の得点をアシストし、試合後は「正直今までに感じたことのないプレッシャーがあったけど、勝って良かったです」と目に涙を浮かべた。10番でエース。日本中の期待を背負って臨んだ東京五輪は、想像以上の重圧だった。

当時から視野も広かった。新聞の感想文を書く課題では、2回に1回は世界に関する話題を選んだ。セリエAで女性審判が誕生したこと、なでしこジャパンの勝利について、イラクで起こった事件の報道、バレー女子日本代表がイタリアを下したこと…興味の矛先は、常に世界に向いていた。

取材の最後に、河村さんは大切にしまっている誕生日カードを見せてくれた。小学6年生の岩渕がメッセージとともに描いたのは、サッカーボール…ではなく、先生の大好きな野球のイラストだった。カナダとの初戦でFW田中がPKを外したとき、岩渕は「PKのミスをとりあげてもらいたくない。ポジティブにお願いします」と後輩をかばった。優しさと強さでチームを引っ張る姿は、今も昔も変わらない。