日刊スポーツ評論家の秋田豊氏(47)が今年も、Jクラブがキャンプを張っている九州・沖縄を訪れた。注目のチームや選手を直撃する毎年恒例の「熱血秋田塾・キャンプ編」(随時)の第1回は、DF内田篤人(29)が8季ぶりに復帰し、秋田氏にとっても古巣の鹿島を見つめた。

 その姿は何も変わっていなかった。たまたま横を見たら、いつの間にか内田選手がいた。いたずらっぽく笑っていた。8年前も今もひょうひょうとした姿は変わらず、そのままだった。

 鹿島には「常勝」の伝統がある。昌子選手は「2位以下はすべて同じだということが分かった」と言っていた。こうした伝統が確かに、選手たちへと浸透している。そこにはフロントの姿勢がある。鈴木満・取締役強化部長が鹿島が進むべき道を固め、必要な強化費は鈴木秀樹・取締役事業部長が稼ぐ。両輪である「2人の鈴木」が高いレベルでブレないから、たとえ監督が代わったとしても目指すサッカーは揺らがない。

 鹿島にはもう1つ、伝統がある。ここにいると選手は鹿島が好きになる。それはどこにあるのか。内田選手は帰ってきた理由を「満さんの存在が大きい」と言っていた。私の現役時代のときも、満さんは良き“相談役”だった。「ファミリーでなければいけない」というジーコの教えを受け継いでいる人。だから、育った人が寄りつく。変わらない太い幹には、枝葉がよく茂るということなのだろう。

 ただ、鹿島には常勝の伝統があると言ったが、だからこそ昨季、逆転優勝を許した姿が気になっていた。

 鹿島にはいつも若手を生かし、伸ばそうとする「スペース」がある。その隙間は外国人選手で埋めようとはしない。鈴木選手や安部選手らが今、そこにいる。彼らがどう伸びるかが、奪還の鍵を握る。かつての本田泰人氏、今の小笠原選手らのように、3連覇の当時を知り、昔と変わらない内田選手も、若手に伝統を教え込まなければいけない。その役割も“ベテラン”の大事な務めになる。

 サイドバックというポジション的に、すぐに影響力が表れるわけではない。ただ、その存在は、じわじわと浸透していくはずだ。(日刊スポーツ評論家)