ここ数回、日本ではあまり展開されていない株式による資金調達のヨーロッパクラブの実績を見てきました。その間にヨーロッパの各リーグでは無観客で再開(フランスなどは打ち切り)し、あの手この手でリーグ戦の消化と、同時に来季以降のCL、カップ戦の調整などに走っているように見えます。各リーグ・クラブ共に「このような形であれば、実施可能である」というものを模索している感じだと思いますが、1つ面白い企画が耳に入ってきました。一言で言うと、「“トークン”による資金調達」です。仮想通貨という言葉が当てはまるのかはわかりませんが、わかりやすく言葉を使うと、「実硬貨の代わりに用いられる代用貨幣」かもしれません。もう少しわかりやすく説明すると、トークンそのものはちょっと前の日本にも存在していたようです。例えば、テレフォンカードそしてカジノのチップ、ギフトカードがまさにそれです。実貨幣でコインを購入、もしくはカードを購入して使用していたわけなのですが、まさにこれがトークンといえます。

では、今回ヨーロッパのクラブが起こしたアクションを見て行きたいと思いますが、バルセロナの事例を見てみましょう。現地・スペインでの情報を集めたところ、発行企業はChilizという会社が運営しておりました。この会社はマルタ共和国に登録されています。場所はイタリアのシチリア島沖合90キロのところにある小島です。このマルタ島は、オンラインにおけるギャンブルのマネーロンダリングの巣窟となっているのでは?という疑惑があった場所でもあります。2015年前後のパナマ文書に始まり、世界中の租税回避行為に関する一連の機密文書が出回ったことで再認識された部分でもあります。今回のChilizという会社もそのマルタに本社があり、北京に支社もあります。なんとなくではありますが中国の思惑であったり、フットボールを通してのビジネスであったり、オンライン、仮想通貨など段々とつながってくるものを感じます。

実際にFCバルセロナは現地のニュース情報をベースに整理すると、1バルサ ・トークンあたり2ユーロ(約240円)で販売され、合計4,000万トークが売り出されたようです。この合計金額は日本円で約96億円にもなります。100億円近いお金が動いているわけですが、全部がバルセロナにはいるわけではなく、このChilizという会社にそのお金が集まるわけです。そこからの分配金という形でバルセロナに収入の一部が配分され、同時にライセンス料が支払われるわけですが、このコロナでの損失が1クラブあたり約100億円前後であるようなニュースを目にした記憶からすると、数字の面でも何か繋がりを感じるようなところもあります。実際にスペイン語でアプリ入れてみたところ、バルサ ・トークンを手にするには、まずChilizの仮想通貨であるトークン「$CHZ」を購入しなければなりませんでした。この$CHZを購入してからこのバルサ ・トークンに変換購入するわけですが、どうしても価値のアップダウンがあります。いわゆるリスクといったものがあるわけで筆者は株式による資金調達は賛成していない考えなのですが、そういった観点からしても、非常に難しい商品であり、資金調達としても長期的な視点からみるとメッシの状況しだいという面もあり、バルサ・トークンの価値は高騰しにくいのではないかと感じてしまいます。

あまり多くのことを書き切れませんが、資金調達方法も様々なものがあります。失敗事例もあることから金融リスクというものは、十分に考慮しなければなりません。とは言ってもクラブ側からの視点から考えてみると、クラブ名使用などによるロイヤリティを得ることができ、売り上げレベニューシェアが付随してくるとすれば、短期的に資金を調達する方法としてのマイナス面は少なく、そもそもこのシステムを採用する・取り入れることでの様々な影響を考慮すべきかもしれません。日本で話題になっている投げ銭システムが、全く見向きもされていないのも、我々には見えていない何かがあるのではないでしょうか。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)