「故郷に錦を飾る」という言葉がある。まだ高校生、これからの長い人生を考えればオーバーな言い回しかもしれない。それでも、そう感じずにはいられない光景だった。
高校生年代の最高峰のリーグ「高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2023EAST」が12月3日、最終節を迎えた。
川崎市等々力陸上競技場では、同じ勝ち点で並ぶ2位の川崎フロンターレU-18(川崎F)と3位の尚志(福島)が対戦した。勝ち点2差で1位青森山田が同時刻に戦っており、結果次第では逆転優勝となるカードだった。
そのピッチに立っていた尚志の背番号8、MF神田拓人(3年)は等々力競技場のある武蔵小杉の出身。自宅はスタジアムからも近い。何より、Jユースが主流のU-18、U-19日本代表メンバーにも名を連ねる世代きってのボランチとなって故郷に帰ってきた。
■素早い身のこなしでタックル
試合は川崎Fが前半からボールを握り、高校生年代とは思えない連動性とプロさながらの攻撃サッカーを展開した。尚志はアグレッシブかつ組織的な守備からのカウンターで対抗するた。誇張なくハイレベルな矛盾対決だった。
神田は攻守両面でチームを支えた。とにかく走る。そこにひと言加えるなら、スッと背筋が立ち、スプリントする姿そのものが美しい。そして相手の鋭い攻撃に対し、素早い身のこなし、タックルで相手ボールを刈っていく。得点に直接絡む選手ではないが、まさしく玄人好みのタイプ。その能力の高さはすぐに理解できた。
前半14分にCKの流れから尚志が先制。後半4分に川崎FがエースFW岡崎寅太郎が抜けだし、GKの意表を突くループシュートで同点とした。どちらにも優勝の可能性があり、気持ちの入った一戦。息つく暇のない攻防が続いた。
終始優勢に試合を進めた崎Fだったが、後半37分、尚志は再び切れ味鋭いカウンターから最後はエースFW網代陽勇が決勝点を挙げた。技術以前に球際にこだわり続ける一体感、高校サッカーの神髄をそこに見た。
■試合後のスタンドから温かな声
2-1と勝利し、プレミアリーグ東地区で2位フィニッシュとなった(優勝は勝ち点2差で青森山田)。観衆は3419人。地元のシンボル川崎Fへの大声援が大きかった中、試合後にはスタンドから次々と温かく声をかけられ、誰よりも注目されていたのが神田だった。
故郷に錦-。どういう心中なのか、神田に話を聞いた。
-フロンターレ相手に地元の等々力で勝ちました
「前半は結構(ボールを)回されましたが、それは想定内でした。そこで失点せずに耐えて、運良く点取ることができて。後半も回されたけど焦れずに、自分たちのサッカーで得点することができて良かったです」
-勝利のポイントは何ですか?
「自分たちの守備のところです。前半で失点していたら流れを持っていかれた。粘り強さは僕らの武器で、そこが要因です」
-相手チームには知り合いも多かったのでは?
「小学校の市選抜やトレセンなんかで一緒でした。大体の選手の特長は分かったので、やりやすかったです」
-武蔵小杉で育ち、その等々力でフロンターレを破って2位になるなんて、どういう気分ですか?
「もう今までのサッカー人生で一番うれしいです。まぁ、優勝は逃したんですけど。本当に最終節に地元でたくさんの応援を受けて、本当にうれしいです。友達も結構どころかむちゃくちゃ来てて。小学校の同じ同級生だったり、チームメートだったり、みんな来てくれました」
笑顔でハキハキと答える姿には充実感がにじんでいた。
■中野島FCから川崎チャンプへ
「練習が楽しかったから」と少し離れた同じ川崎市の中野島FCでサッカーを始めた。三好好児(バーミンガム・シティFC)ら多くの有力選手を輩出する強豪クラブだ。
中学に上がるタイミングで川崎フロンターレU-15の入団テストを受けたが、合格とはならなかった。そこで等々力を拠点に活動するFC川崎チャンプジュニアユースへ。ボールを大事にする指導の中、技術に磨きをかけた。
中学3年時、尚志に進学した川崎チャンプで仲の良かった先輩から「むちゃくちゃいいぞ」と誘われた。その年の全国選手権でFW染野唯月(東京ヴェルディ)を擁して4強入りしたチームも決断の後押しとなったという。
「本当に尚志は練習も楽しくて、サッカーも強くて、環境も良くて。本当にサッカーに集中して打ち込めました。本当にここに来て良かったです」
■「高校でより向上心を持って」
その尚志で伸びた部分は「守備力」だ。90分走りきれる総力をベースにボールカット、攻守の切り替え、オーバーラップにカバリングと様々な場面でチームに関わり、ピッチに”数的優位“を生み出している。
「(仲村浩二)監督からは、なかなか守備ができるボランチはいない。お前はなかなかいないタイプだし、やっていけると言われた。その守備のところは(人一倍)頑張っています」
12歳で川崎Fアカデミーに入る夢は叶わなかったが、その時の「悔しかった」思いを忘れてしまうくらい、充実したサッカー人生を送っている。
「自分は高校から成長したと思っています。それまでは本当に平均的な選手でした。高校でより向上心を持って、サッカーにも打ち込むことができました。尚志高校に入ったから、こういう選手になれたと思っています」
■この冬の選手権で「全国制覇」
サッカー選手はいつ、どこで成長するか分からない。Jアカデミーのテストに落ちた選手や、ユースに昇格できずに高校サッカーへと回った選手が、その後に大きく羽ばたいたケースは枚挙にいとまない。それだけサッカーとは不確かなものだとあらためて思う。
一方で向上心を忘れぬポジティブ思考の持ち主には、置かれた環境で自身の未来を切り拓いていく力があるのだとも教えてくれる。図らずも神田の名前は、人生を「拓く人」だった。
次は年末から始まる最後の大舞台がある。神田は「この勢いのままに選手権も。まだ尚志高校は全国制覇はできていないので、今年の代で絶対に全国制覇できるように。この流れのまま頑張っていきたいです」と誓った。
ぜひ、この冬に注目してもらいたい選手の1人だ。【佐藤隆志】









