連載「フットボールの真実」の第2弾は「ハリルホジッチ電撃解任」。W杯(ワールドカップ)まで約2カ月、この土壇場でハリルホジッチ監督を解任した舞台裏に迫ります。全5回の第1回は、解任の決定打になったベルギー・リエージュの夜。

 ベルギー・リエージュの夜が解任への決定打になった。3月23日のマリ戦は、格下に引き分けるのが精いっぱいの大凡戦。ガラガラのスタジアムには“前監督”の「蹴れ、蹴れ」というむなしい指示と、それに呼応できないピッチ上の選手の大きな溝があった。

 翌24日夜。日付が変わり、欧州は未明にサマータイムになったがその夜は長かった。代表宿舎はリエージュ市の中心にある5つ星。坂の上にあるお城のような古いレンガ造りで趣のある建物だった。深夜まで、明かりが漏れ、会話が続いていた。

 日本協会はマリ戦の内容にかつてないほどの危機感を覚えた。団長で、今回監督に就任することになった西野技術委員長(当時)が、同じようにW杯へ危機感を抱いた選手から、聞き取り調査を行っていた。

 チーム状況、監督の求心力、そして信頼。何より、縦に速い攻撃一辺倒の戦い方はどうなのか。その中で、主将の長谷部は、選手の総意として現体制では厳しいと伝えた。

 マリ戦後、指揮官の求心力は急激に低下。翌日の練習後には、複数の選手が公然と戦術に異を唱えるようになった。FW大迫は「縦に速い攻撃だけじゃ…」と素直に課題を口にし、DF長友も「今日の試合内容ではW杯で勝つのは厳しい」とはっきり言った。

 これを報道で知った指揮官はわざわざ会見で「何か問題があれば内部で解決するもの。外部への発言は良くない」とくぎを刺すなど過剰に反応。もはや平常心を失っていた。

 協会トップの田嶋会長自らも動いていた。強烈なキャラクターと、その歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで、危ういハリルホジッチ監督の行く末を案じ、17年12月末には会長自ら、極秘裏にチームをまとめる長谷部と約束を取り付け、クリスマス休暇で帰国した不動の主将と会い、現状を聞き取るなどしていた。

 直前、国内組で編成されたハリルジャパンは東アジアE-1選手権で、宿敵・韓国に完敗。にもかかわらず、開き直ったように「韓国の方が格上だ。試合前から日本より強いと分かっていた」と言い放った指揮官の采配と態度を問題視。解任の可能性を探り、この時も、西野技術委員長を後任とする案を検討した。

 結局当時は、協会幹部の方向性がまとまらず、消極的続投に。しかし協会と指揮官の溝、そして選手と指揮官の溝は、もはや埋めがたいものになっていた。

 解任は時間の問題だった。選手はもう、監督を信じられなくなっていた。リエージュの夜には、選手の権利さえ取り上げられる“事件”もあった。【八反誠】(つづく)

Jリーグ創設以降の日本代表監督
Jリーグ創設以降の日本代表監督
3月、親善試合マリ戦で厳しい表情でピッチを見つめるハリルホジッチ監督(左端)
3月、親善試合マリ戦で厳しい表情でピッチを見つめるハリルホジッチ監督(左端)