大学サッカー界が熱い。近年、日本サッカー界では筑波大卒の三笘薫(24=ベルギー1部サンジロワーズ)や順天堂大卒の旗手怜央(24=川崎フロンターレ)など、大卒選手がプロ初年度から活躍するケースがみられるようになった。来年1月の国際親善試合ウズベキスタン戦に臨む日本代表メンバー22人に、12人の大学サッカー経験者が名を連ねるなど、その価値が高まっている。
大学サッカーってどんな世界なのか? 学業との両立は? 筆者の母校で関東大学2部リーグ所属の東京学芸大に、来季の松本山雅FC入りが内定している主将の住田将(しょう、4年=青森山田)という選手がいる。その住田の4年間を例に、大学サッカーとは何かを考えたい。
■東京学芸大主将、住田将の歩んだ道
11月27日、蹴ったボールが押し戻されるほど強風の千葉・浦安市立陸上競技場。海沿いの美しい夕日が暮れ、一層寒さの深まる中、背番号7番はタッチライン付近で座り込み、両手で顔を覆って涙を流した。住田が主将として引っ張った東京学芸大は、関東大学1部参入プレーオフで拓殖大に0-1で敗れ、昇格はかなわなかった。
「やっぱり最後の最後に、勝てなかったことにすごく悔いが残ったのと、後輩たちに1部の舞台を残したかったなっていう。個人的にも最後、チームを勝たせられなかったなっていうふがいなさとか、自分に対してもすごい悔しい気持ちが残りました」
住田のサッカー人生はジェットコースターのようだ。小学校から名古屋グランパスの下部組織で育ち、U-15、16の日本代表にも選出されたが、名古屋ユースで試合に出られなくなる。「高卒でプロになることを諦めたくない」と高校3年で名門・青森山田高に転校した。「高卒でプロ」の目標はかなわなかったが、関東2部所属で国立の東京学芸大に進学した。
「大学にいくならできれば文武両道のところを選びたかった。(青森山田高の)先輩の原山海里さん(J3ヴァンラーレ八戸)も行っていたので黒田監督に勧められて受けました」
東京学芸大学は、鹿島アントラーズなどで活躍した元日本代表の岩政大樹氏や高橋秀人(横浜FC)らを輩出する一方で、教員志望の学生がほとんどの割合を締めるなど、多くの選手がプロを目指す強豪私立大学とは環境に差がある。資金力にも乏しく、グラウンドを広々と一面使える日も少ない。
■2年で最下位、史上初の都リーグ降格
簡単に説明しておくと、関東大学リーグは1部と2部各12チームの合計24チームで構成されている。毎年2チームが2部へ降格し、2部から2チームが昇格。また、2部から関東の各都道府県リーグへの降格もある。住田は1年のリーグ戦前期第3節で出番をつかむと、その後4年間主力としてチームの中心で戦った。1年時はリーグ戦で9位。2年時は最下位で東京都リーグへと降格した。
「高校の時にほとんど試合に出られなかったので、1年生の時は自分のことで必死でした。2年生の時は降格したことに関しては、自分らの代が多く出ていたので、すごく責任を感じました。進路のことを考えてもかなりショッキングなことでした」
1983年から関東リーグで戦ってきたチームが降格したのは、史上初めてのことだった。新興勢力が台頭する中、周囲からは「2度と関東リーグに昇格できないのでは」という声もささやかれた。降格した時のことを住田は「うまくいかないとき苦しいときに、立ち返るところがなくて、『これをやってきたから』みたいなのが全くなかった。全てにおいて中途半端だったのかなって感じた覚えがあります」と振り返る。
■3年時に教育実習で活動に参加できず
3年時の東京都リーグは、教員養成大学らしい環境にも悩まされた。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、他の大学よりもチーム活動再開へのハードルが高く、リーグ戦開幕の約1週間前にチームは始動した。
東京学芸大では、9月~10月にかけて、ほとんどの3年生が教育実習に行く。 「教育実習が始まる2週間前から、実習が終わるまでチーム練習に参加することができなかった。最初の5~6試合は出られませんでした」
主力が多かった3年生がそろわない中でチームはふんばった。2位で関東リーグ参入戦に進み、苦しみながらも1年での関東リーグへの復帰を決めた。
住田は3年時から学年の代表者を務めていたこともあり、新チームでは自然に主将になった。キャプテンを務めるのは中学以来だった。琉球への加入が決まっている武沢一翔(鹿島ユース)とBチームの佐藤創太(山形南高)が副将を務めたほか、チーム全体の事務系仕事を仕切る主務の佐藤哲(高崎高)を含めた同学年の幹部4人体制で、例年以上にミーティングを重ねた。
「みんな頭がいいんですよね。今まであまり会ったことないような。いつも感心していました」
名古屋ユースや青森山田高にいた頃には出会えなかったタイプの選手から大きく刺激をもらった。スタメンで出ている選手だけでないメンバーを幹部に加えたことで、チーム全体の声をすくい上げやすくなり、一体感が生まれた。
■4年で総理大臣杯出場、全国16強
4年生となり、迎えた2021年シーズン。チームは開幕戦で敗れたが、第2節の専修大戦で立て直し、前期は昇格圏内の2位で終えた。「どんな形であっても勝つっていうことが自分たちに自信を与える。そういう意味では都リーグで勝ち方を身につけたのは大きかった」と昨シーズンの経験を生かした。8月にはチームとして14年ぶりに総理大臣杯に出場し、全国ベスト16に進出した。
後期リーグ戦では、第14節で1位に立つも、第15節で昇格を争うライバルの東洋大に0-5の大敗。続く関東学院大にも1-2と敗れて連敗を喫し、昇格圏内から陥落した。「東洋戦はやってはいけない試合だった。あそこの時期はやっぱり、つらかった…」。総理大臣杯出場直後で、チームに緊張の緩みのようなものがあったという。「おれたち何も成し遂げていないし、もう1回足元見つめてやろうよ」と引き締めた。
最終節の中央大戦は5位で迎えた。自力昇格の可能性はなく、「もうたぶん厳しいだろうなと思っていて、『他会場頼む』というよりは最後に積み上げてきたものを全部出し切ろうっていうマインドでした」。
1-1で迎えた78分に佐藤哲の得点で勝ち越すも、89分に追いつかれた。90+5分に佐藤哲が再度勝ち越しゴールをたたき込み、昇格を争っていた関東学院大と日本体育大がともに敗れたため、劇的な展開で東京学芸大の3位が確定した。
■人として選手としての成長を実感
約1カ月後に行われた1部10位拓殖大との昇格プレーオフでは惜敗した。シュート数は同数。決定機はより多く作った。「やれている感じはあった。最初にビックチャンス作ったり、自分たちのよさが出ていて、いけるって思っていましたが1点が遠かったっていう感じですかね」。最後に勝てなかった悔しさは消えないが、充実感もある。
「1年生のときからプロ志望の志が高い同期がいたからこそ、昇格っていう目標を最後までぶらすことなくがんばってこられたことは誇りに思う」
人として、プレーヤーとしての成長を実感している。
「対戦相手のスカウティングも含めて、全部自分たちでやるのが大学サッカー。自分で考えて何か行動するっていうことに関してはすごく成長した。このチームでどうやったら上に行けるか、どうやったらプロになれるかっていうのを実行するっていう部分は、この4年間で身についたこと」
続けて「あとは試合に出てなんぼだなって。楽しむというか、自分の良さをどうやったら出せるか、どうやったら(得意な)良いキックを出せるかっていうのは学芸に来て思い出しました」と試合出場のチャンスが多いこともサッカー人生にプラスに働いたという。出場機会の増加とともに、正確な技術で長短のパスを織り交ぜ、チームにリズムをもたらす181センチの大型ボランチは、より一層スケールアップした。
専門のクリニックで体幹を鍛えたり、初動負荷トレーニングを取り入れたり、キック専門のトレーニングに通ったりと、チームの全体練習以外でも自分で考えてレベルアップに励んだ。来季はJ3に降格が決定した松本でプロのキャリアをスタートさせる。
「1年目から試合に絡むことは近い目標。あとは10年以上現役をやりたい。その中で愛される選手になりたい。プレーでも人間的なところでも目指したいな、応援したいなって思ってもらえるのが理想」
■プレーの言語化、自らの強み磨ける
筆者もこの東京学芸大で4年間、真剣にサッカーと向き合った。個人的なレベルは決して高くなかったが、プロを志望する周囲の姿勢に大きな刺激を受けた。
住田のような有望株は若い学年から、中心人物として責任もってチームで主軸を担う経験もできる。相手チームのスカウティングや組織づくりに関与することで、プレーの言語化能力が身につく。トップチーム以外のカテゴリーでもリーグ戦のシステムが整っており、1年1年が勝負のプロとは違い、4年間というスパンで試合に出続けながら、自分のストロングポイントを磨くことができるのも大きな魅力だ。
大学サッカーとは何だったのか? 住田が自身の4年間を総括した。
「入学前からは考えられないような経験をさせてもらえる場でした。プレーレベルはもちろん上がりましたし、自分で何か考えて行動する部分が成長しました。個人的にすごく充実していました。大学サッカーにきて本当によかったと思います。間違いじゃなかった」
「高卒でプロ」とはならなかったが、4年間は遠回りでない。東京学芸大で一回りも二回りも大きくなった技巧派レフティーは、自分の決断が間違っていなかったことを夢の舞台で証明する。
【佐藤成】
◆佐藤成(さとう・せい)東京都出身、28歳。小学2年からサッカーを始め、国分寺高時代は東京都ベスト16。東京学芸大へ進学し、蹴球部所属。教師としてサッカー指導者を志すも、急な方向転換で新聞記者に。19年入社。











