22年ワールドカップ(W杯)カタール大会はW杯史上初めて「カーボンニュートラル(二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を削減した上で、削減しきれなかった分を植林・森林管理などにより吸収し、差し引きゼロにすること)」で行われる。

カーボンニュートラルを達成するための目玉となるのがドーハの西の砂漠の中、10平方キロメートル(=東京ドーム約220個分)の土地に太陽光パネルを敷き詰めた、カタールで初めての太陽光発電所だ。その発電所が10月18日に完工式を迎えた。

この発電所建設のプロジェクトを担う現地事業会社の最高財務責任者(CFO)を務めるのが、20年に丸紅からの出向でやってきた河野篤さん(32)。河野さんも「カタールの盛り上がりをじかに感じますし、この2年間だけでもスタジアムが完成したり、過去のW杯の名選手がカタールを訪問したり、機運の高まりを感じています」とW杯の開幕を心待ちにしている。

河野さん自身、小学校から大学までサッカーやフットサルをたしなみ、現在も週1~2回、現地の外国人チームでプレーをしている。学生時代は中田英寿氏のファンだったそうで「彼が日本人サッカー選手の欧州への道を切り開いたと思っています。サッカーの実力はいわずもがな、卓越した言語能力やファッションセンスなども含め、まさにアジアサッカー界を代表する存在で、サッカー界においてまだ認知度の低かったアジア、日本の地位を一気に高めてくれた。そういうところに非常に憧れていました」と振り返る。

そんな河野さんだが、神戸大在学中に米国の大学に留学。そこで現在の仕事にもつながるような出来事に遭遇した。せっかく米国に来たのだからと授業では頻繁に手を挙げ、積極的に自らの意見を発言していたところ担当教授から「日本人にしてはよく発言する」と言われたのだという。

相手としては褒め言葉として言ったつもりだったかもしれないが、言われた本人の受け取り方は少し違った。「日本は経済大国ですから、正直、日本人はある程度尊敬されているのだろうという変なうぬぼれをもってアメリカに行ったんです。ですが、実際は消極的に思われていて。素晴らしいリーダーが日本の中にもたくさんいることを海外の人にも知ってほしい。おこがましいですけど当時大学生ながらそう思いました。ですから仕事をするなら海外をフィールドにして、日本人としてプロジェクトを引っ張るようなことをイメージしていました」と商社を就職先に選んだ。そして「ある意味、今やっていることは当時やりたかったことなのかなと思います」と感慨深げに話す。

河野さんが要職を務める事業会社は、丸紅とフランスの多国籍エネルギー企業「トタル」、現地の「カタールエナジー」の3社が合弁で設立したもの。社長はカタール人で、CFO(河野さん)と建設ダイレクターが丸紅からの出向者。2人の副建設ダイレクターをトタルとカタールエナジーからそれぞれ出している。「事業開発ノウハウを持つ丸紅がリードデベロッパーとしてこの事業を進めてきた。海外の企業を、日本企業としてリードしながらやっているというところは1つのやりがいだと思っています」。

この太陽光発電所は出力800メガワットで、年間約200万メガワットアワーを供給することが可能。年間でカタールの総消費量の10%をこのプラントからまかなうことができるという。

カタールの国としての威信をかけたプロジェクトをまかされ、国際サッカー連盟(FIFA)からの期待も大きい太陽光発電所建設に関わってきた河野さん。日本代表や、かつて憧れた中田英寿氏同様、日本人のプライドを胸に世界で戦っていた。【千葉修宏】

カタールの砂漠の中に建設された同国で初めての太陽光発電所(空撮)
カタールの砂漠の中に建設された同国で初めての太陽光発電所(空撮)
太陽光発電所のパネルの前に立つ河野さん
太陽光発電所のパネルの前に立つ河野さん
河野さん(右端)は異国の地で外国人の仲間とともに太陽光発電所建設プロジェクトの重責を担った
河野さん(右端)は異国の地で外国人の仲間とともに太陽光発電所建設プロジェクトの重責を担った