J1ベガルタ仙台の永沼慎也主務(35)は震災の津波で石巻市内の実家を失った。震災当時、仙台から石巻に行けたのは1週間以上たってからだった。実家近くの日和山から見た故郷の風景は「ひどすぎて、衝撃的すぎて、何を思えばいいのか分からなかった」。

実家は当時、門柱だけが残っていたが、今では跡形もない。唯一、残されているのが「永沼」の表札だ。大津波を受けた傷痕が、黒染みとなって生々しく残っている。大黒柱だった父英穂さんは18年5月、病気のため他界。63歳の若さだった。表札は父と永沼家の形見となった。「大事にしていかないといけないもの」と仏壇に置いている。

あれから10年だが「節目」だとは思っていない。「ベガルタで働かせてもらっている以上、毎年、被災地の希望の光になろうと思って働いている。震災を知らない選手が増えたけど、機会をつくって震災のことを話していきたい。被災者の方には本当に小さなことかもしれないけど、1つ1つの勝利を見ていただけたら」と語った。