<世界陸上>◇20日◇男子200メートル決勝◇ベルリン五輪スタジアム

 【ベルリン21日=佐々木一郎】世界最速男ウサイン・ボルト(23=ジャマイカ)が、200メートルも驚異的な世界新記録で制した。08年北京五輪の決勝でマークした19秒30を0秒11更新する19秒19でフィニッシュ。9秒58を記録した100メートルに続き、2冠をダブル世界新で飾った。向かい風0・3メートルの恵まれない条件下で、2位に0秒62差をつける異次元の快走。あまりの強さに、会見ではドーピングを問う声が次々に上がったが、本人は完全否定。限界は設けず「レジェンド(伝説)」になると宣言した。

 速すぎるがゆえの宿命か。レース後の記者会見。ボルトにはドーピングに関する質問が飛んだ。レースの話題が、また薬物問題に戻る。ボルトは真剣な顔で答えた。

 ボルト

 (ドーピングを疑う声は)侮辱とは感じない。過去に例があるから仕方ない。でも自分がこれからも速く走って、クリーンでいれば、いつか誰も質問しなくなるだろう。

 ―あなたがクリーンであることを疑う人がいたらどうする?

 ボルト

 僕はクリーンだと言い続けるよ。走って、練習し続けてきたんだ。いつ何時だって、ドーピング検査を受けてきたんだ。

 心外だったかもしれないが、それほど強さは際立った。トラックに入ってきた時のTシャツには「Ich

 bin

 ein

 Berlino」(僕はベルリーノ)と書かれていた。ベルリーノは、今大会のマスコット。63年にケネディ米大統領がベルリンを訪問した時に言った「Ich

 bin

 ein

 Berliner(私はベルリン子だ)」に引っかけ、ドイツ人の心をグッとつかんだ。

 フランス人選手がフライングを犯し、仕切り直しのスタート。テレビカメラに「Come

 on

 and

 get

 me!」(かかってこいや!)とほえた。次のフライング=失格という重圧の中、ボルトはスタート反応時間8人中最速の0秒133で飛び出した。100メートル決勝の0秒146よりも速かった。コーナーの出口でもう勝負は決した。その後は遊びなしの全力疾走。後半100メートルのタイムは9秒27。19秒20の速報タイムは直後、19秒19に訂正された。

 北京五輪前までのマイケル・ジョンソン氏の世界記録19秒32は「不滅の記録」と言われてきた。それを五輪で0秒02破り、今回はさらに、向かい風0・3メートルという恵まれない条件下中で0秒11更新した。2位エドワードに0秒62差。約7メートルもの大差をつける異次元の走りだった。

 「何だって可能だ」。この日、何度も口にした。「北京五輪での記録をみて、何でも可能だと思ったんだ。記録が19秒を切るかどうかは、分からないけどね」とボルト。五輪王者、世界選手権王者、そして世界記録保持者。これを2種目で同時に成し遂げたスプリンターは、過去にいない。「僕の最大の狙いは、レジェンド(伝説)になることなんだ。だから、それに向かって進んでいくよ」。ボルト伝説は、まだ続く。