<陸上世界選手権>◇第8日◇17日◇モスクワ◇男子マラソン

 粘りの男が、日本の伝統を守った。ロンドン五輪6位の中本健太郎(30=安川電機)が、2時間10分50秒で5位入賞を果たした。一時は先頭集団から脱落したが、35キロすぎに追いつく粘りを発揮。初マラソン以来、11戦連続で10位以内に入る安定感で、日本勢8大会連続の入賞に結び付けた。

 ゴール直後ではなかった。中本は、5歩歩いてから右腕に筋が浮かぶ右拳を突き上げた。「メダルじゃないとガッツポーズできない」と話していたが、真夏のモスクワで日本人最高位。一瞬の間について「うれしいのと、悔しいのと半分半分で」と少し照れた。

 スタート時の気温24・4度。暑さに強い男は「最適な気温だった」と先頭集団についた。30キロ過ぎに離されたが「ついていくと足が止まる」と冷静に分析。35キロ過ぎに追いついた。折り返し地点で声援を送った玲子夫人(24)の顔を確認して、心を支えた。「競技場に入るまでメダル(3位の選手)が見えていたので。そこは近いようで遠い」。

 日本代表は11日に現地入り。宿舎では5人でテーブルを囲んだ。給水のやりとりなど連係も相談。ただ中本は勝負についてだけは「日本人全員に勝ちたい」と話していた。

 2月、別府大分毎日マラソン。川内と壮絶なデッドヒートを展開。4度のスパートに食らいついたが、40キロ過ぎに5度目の仕掛けに力尽きた。「直接対決で負けたのは悔しい」。昨年ロンドン五輪で6位入賞の喜びは吹っ飛んだ。この日「日本人1位にこだわった。うれしいところです」。

 2年前の11年大邱大会10位から、ロンドン五輪6位、そして今大会の5位と順位を上げた。ロンドンは粘って、落ちた相手を拾って順位を上げた。それでも「4位の選手が見えていた」と悔しがった。五輪の翌年も休養をとることなく果敢にチャレンジ。「今日は前に出ての入賞なので」と胸を張った。

 次の目標はメダルになる。競技場では4位の選手を猛追したが、届かなかった。「あそこで抜けないのがスピードのなさ。今日は80点。勝負強さを磨きたい」。通算11レースですべて10位以上。抜群の安定感を持つ“外さない男”は「マラソン以外は外すんですけどね」と最後に少し笑った。【益田一弘】

 ◆中本健太郎(なかもと・けんたろう)1982年(昭57)12月7日、山口・下関市(旧菊川町)生まれ。菊川中では野球部で外野手。西市高で陸上を始め、拓大では藤原新の1学年下で、4年時に箱根駅伝に出場して7区16位。05年に安川電機入社。11年の大邱世界選手権では10位。自己ベストは今年2月の別府大分での2時間8分35秒。家族は玲子夫人(24)と1歳の長男理久くん。173センチ、58キロ。