美しい大自然の中で風をいっぱいに受けながら戦う。それがウインドサーフィン。PWA(プロフェッショナル・ウインドサーファーズ・アソシエーション)が主催する世界ツアーの最終戦は2年に1度、ニューカレドニア・ヌメアで行われる。息をのむほどの美しい海で、激しい戦いが繰り広げられている。

 気象条件と、その日の状況に応じて変化する道具のセッティング、そしてライバル。ウインドサーフィンの選手は3つの不確定要素と戦う。プロとして活躍するウインドサーフィン歴20年で、2007年から世界最高峰のPWAワールドツアーに参戦し、13年に世界ランキングは5位の成績を持つ鈴木文子(43)と、スラロームで世界に挑む穴山未生(32=BETHESDA)に話を聞いた。

ウインドサーフィン歴20年の鈴木文子(左端)と同8年の穴山未生(Bruno Moure Photographie提供)
ウインドサーフィン歴20年の鈴木文子(左端)と同8年の穴山未生(Bruno Moure Photographie提供)

■ブイ通過し着順競う

 ウインドサーフィンには大きく分けて4種目ある。その中で鈴木、穴山は主にスラロームで活躍している。風上から風下へ設定されたコースの中で、設置されたブイを通過しながら着順を競う。非常に分かりやすい競技だ。

 スラロームは五輪種目ではない。ちなみにウインドサーフィンでの五輪種目はヨット種目のRSX級と呼ばれ、出場選手は同じ道具が義務付けられており、異なる道具でレースをするスラロームとの大きな違いがある。

 穴山はスラロームの魅力を簡潔に説明してくれた。

 穴山 「ウインドサーフィンをはじめてみる人が、RSX級で選手が並んで走る姿を見た時、どちらがうまい選手かすぐには見分けられません。ですが、スラロームはパッと見て、どっちがうまい選手かすぐに分かります。見栄えがするんですね。そこが、私がスラロームに惹かれるところです。そして勝負はおよそ5分で決着します。分かりやすいですよね」

 鈴木や穴山は毎年、道具をそろえるところから戦いが始まる。

 鈴木 「大会ごとに適した道具も変わります。それに自分の体形にあったものでないと力が発揮できないので、常に複数のセットを用意していないといけないんです。大体1セットが100万円くらいで、6セットは必要になります。それを航空便で運びますから、輸送費だけでも相当な負担になります。大変なんです」

昨年10月にナミビアの運河で最高速度79キロ、平均速度72キロを記録した穴山未生(カメラマン・里村哲也氏提供)
昨年10月にナミビアの運河で最高速度79キロ、平均速度72キロを記録した穴山未生(カメラマン・里村哲也氏提供)

■6つのパーツで構成

 美しい風景を背に、海面を飛ぶように進んでいく。見た目は華やかで、壮快なスポーツだが、そこに挑むまでの苦労は並大抵ではない。

 穴山 「ウインドサーフィンは大きく6つのパーツから成っています。それをどう組み合わせるか、そこから毎年はじまります。その正解が分からないから、いろいろ試しながらの戦いです。メーカーとして道具の開発に携われる立場なら、自分の意見を取り入れていろいろできると思います。ですが、私の場合は道具を提供していただく側です。道具のスペックを把握してから、ワールドカップ(W杯)ごとの条件に合わせてセッティングしていきます。自然条件はその日によって異なり、常にその時々の判断が求められます。ウインドサーフィンのメーカーは数も限られています。そして私たちが提供していただく道具は、男子選手のために製作されたものです。毎年進化するその道具を、どうやって組んでいくか…、難しいですね。だから、常に新しい感覚が求められますし、去年と同じではダメなんですね。前の年に好調だった選手が、翌年は全然ふるわないことも珍しくないんです。道具を使いこなす正解への道がみえず、1年通して苦しんで終わることもあります。他の選手が使う道具との違いもあります。だから、成績が上がらないことを道具のせいにできますし、正解に近づけなかった自分の能力を悲観することもあるんです」

スラロームのレースで激しく先頭を争う。中央が穴山選手(John Carter提供)
スラロームのレースで激しく先頭を争う。中央が穴山選手(John Carter提供)

 具体的には大別してセール(帆)、ボード、マスト、フィン(舵)をどの位置で、どの角度で組み合わせるか、その選択は無数にある。そこに気象条件と、ライバル選手の道具という不確定要素が加わる。悩むことは無限。自分で分析、観察、判断するしかない。

 そんな鈴木、穴山が年間を通して楽しみにしているのが、ニューカレドニアの首都ヌメアで2年に1度開催されるスラロームのW杯だ。

 鈴木 「世界を回っていますが、私は一番楽しみにしているところです。風が安定しているんです。それがスラロームをする選手にとってはとっても大事なことなんです」

 穴山 「ニューカレドニアは、一番好きです。あそこは、同じ風が吹いてくれるんです。だから、それを見越して準備ができるんです。それにグッスリ眠れるんです。どうしてでしょうね。多分、気候が私には合うんだと思います。カラッとしてますから。今回が3回目ですが、とっても楽しみにしてました」

2015年にヌメアで開催されたワールドツアーのレースを空撮(PWA提供)
2015年にヌメアで開催されたワールドツアーのレースを空撮(PWA提供)

■W杯3位が今の目標

 2017年11月に開催されたヌメアでのW杯には日本からは女子3選手が出場し、鈴木が10位、須長由季(37)が6位、そして穴山が12位だった。

 穴山 「私の今の目標はW杯で3位以内に入ることです。2013年の韓国大会で5位に入ったのが最高です。その同じ大会で鈴木さんが4位でした。スラロームは道具をいかに使いこなすかがとても大切で、そのためには大会までに道具の組み合わせの正解に近づいておかないといけないんです。素晴らしい自然の中で、そこまで楽しむ余裕はないんですが、今は自分がどこまで世界に肉薄できるか、そのためにまだまだ一生懸命トライしようと思っています」

【井上眞】

ウインドサーフィン・スラロームの2017年ワールドツアーを戦った穴山未生のポートレート(John Carter提供)
ウインドサーフィン・スラロームの2017年ワールドツアーを戦った穴山未生のポートレート(John Carter提供)

 ◆ニューカレドニアめも

 成田空港、関西空港からの直行便としてエアカランが就航している。所要時間の目安は約8時間。サンゴ礁に囲まれた湾内は穏やかな波で、マリンスポーツに適している。世界自然遺産のラグーン(環状サンゴ礁に囲まれた浅い水域)は登録10周年を迎え、今も世界中から観光客が訪れている。また、毎年夏に行われる「ニューカレドニアモービル国際マラソン」(2018年は8月26日開催予定)には、公務員ランナーの川内優輝(30=埼玉県庁)と、その弟の鴻輝さんが出場を予定している。

ウミガメの生息数は世界第2位、ジュゴンの生息数は世界3位。レースが行われている海中は豊かな自然が残されている。(John Carter提供)
ウミガメの生息数は世界第2位、ジュゴンの生息数は世界3位。レースが行われている海中は豊かな自然が残されている。(John Carter提供)
2015年に開催されたヌメアでのWT開催時の全景写真(PWA提供)
2015年に開催されたヌメアでのWT開催時の全景写真(PWA提供)