町のスイミングクラブ(SC)が悲鳴を上げている。新型コロナウイルス感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言から約1カ月半。各自治体で段階的に休業要請が緩和され始めた。しかしSCは、ほとんどの自治体でスポーツクラブに含まれる扱いで「クラスターが発生した施設」となっている。

日本スイミングクラブ協会の岡本実会長(70)は「スポーツクラブでクラスターが発生しましたが、現時点でプールでは発生していません。もともとプールは次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌、湿度50~60%、換気など衛生管理が徹底されています。そこをご理解いただけるとうれしいのですが…」と口にする。

ジムを併設しないプールだけのSCも「スポーツクラブ扱い」。埼玉県では休業要請の緩和が、パチンコ店、マージャン店よりも遅くなる区分けだ。自治体によっては「水泳場」という区分けもあるが、それは千葉県でいえば「千葉県国際総合水泳場」のような大規模施設を想定する。「大阪モデル」で名をはせた大阪府もSCはスポーツクラブと明確に分けられておらず、23日午前0時でも「スポーツクラブ」の解除は見送りとなった。SCは行政による「区分け」の隙間に落ち込んでいる、といえる。

東京都などとともに特定警戒都道府県だった愛知県は14日、国による緊急事態宣言を解除された。それに伴って同県は19日にスポーツクラブとSCを分離して、クラスターが発生していないSCの休業要請を緩和した。岡本会長は「愛知県のように分けて考えてもらえることがベストですが。自治体によって、ばらつきがあります」。同協会は全国を10ブロックに分けて、それぞれで自治体に働きかけている。同関東支部も今月中旬に都議会に要望書を提出。ただ新型コロナウイルスの混乱の中で、各地でなかなか「スポーツクラブ扱い」から脱却できない。

岡本会長は「SCは個人営業が多い。一般論として、SCは収入の85%が会費。1カ月間、閉鎖すれば、取り戻すのに1年かかる。もう2カ月、会費が入らないままになっている」。現在、会員に月謝を払い戻すSCが多いが、負担は増すばかり。都市部では家賃などの固定費が何百万単位になる。実際に千葉県内のあるSCでは、コロナ禍と施設の老朽化が重なったことで閉鎖を決断している。

ただ愛知県も、スポーツクラブに併設されたプールは休業要請のまま。同じくタイミングで解除されたボウリング場はカラオケが併設される施設も多いが、こちらはカラオケ部分を閉鎖することで解除となったという。関係者は「ジム部分を閉鎖すれば、プールだけの利用は解除されてもいいと思いますが…」という。

日本の水泳は、1964年東京五輪で銅メダル1個の惨敗から、米国を手本に全国にスイミングクラブが設立されたことで発展してきた。日本水連の平井伯昌競泳委員長は「今はスイミングクラブが営業できない。経営が大変。水泳は学校体育だけでなく、社会体育との両輪で伸びてきた。その基盤が大丈夫かどうか。事態の長期化で深刻なダメージがある」と心配する。

スイミングは「やりたい習い事」で1位になるなど、子どもの健康増進にひと役買ってきた。同協会は18日に感染拡大防止のためのガイドラインを設定。プールだけでなく更衣室、送迎バスなどの運用も細かく規定している。関係者は「たくさんの業種があって、手が回らないことも多いと思います。ただもう少しだけ、枝分かれの部分を精査してもらえることが望ましいです」と祈るように口にしていた。【益田一弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆益田一弘(ますだ・かずひろ)広島市出身、00年入社の44歳。五輪は14年ソチでフィギュアスケート、16年リオで陸上、18年平昌でカーリングなどを取材。16年11月から水泳担当。