<フィギュアスケート:世界選手権>◇28日◇さいたまスーパーアリーナ

 大逆転“3冠”だ。ショートプログラム(SP)3位のソチ五輪金メダリスト羽生結弦(19=ANA)が、2種類の4回転ジャンプを決めて191・35点。合計282・59点で約7点差をひっくり返し、10年大会の高橋大輔に続く日本人2人目の優勝を飾った。同一年度にGPファイナル、五輪、世界選手権を制するのは01-02年シーズンのアレクセイ・ヤグディン(ロシア)以来。母国での凱旋(がいせん)Vで、再び偉業を成し遂げた。

 「勝った?

 勝った?」。羽生は得点が場内に表示されると、無邪気にきょろきょろしながら、その瞬間を待った。時間差で順位が発表される。電光掲示板に浮かび上がった数字は「1」。「すごくうれしかった」。町田の合計得点を、わずか0・33点上回った。史上2人目の3冠達成。1万7689人の大歓声に応え、桜が咲き誇るより一足早く、満開の笑顔が咲いた。

 「意地と気合だった」。ソチと同じ轍(てつ)は踏まない。五輪では2回転倒し、金メダルでも悔しさが先に立った。あれから1カ月、凱旋試合で鍵を握ったのは冒頭の4回転サルコー。昨年9月のフィンランディア杯で成功して以来、ソチまで5試合連続で失敗。基礎点でトーループより0・2点高い10・5点の大技が決まるかどうかが、逆転できるかを左右していた。

 「ロミオとジュリエット」の曲が響き始め、スピードを上げていく。20秒後、力強くも軽やかに宙を舞った細身の体が、勢いよく回転する。着地の右脚で何とか踏ん張る。ソチの自分を上回った。続く4回転トーループも決め、一気に後半へ。力を出し切り、演技後は氷に突っ伏した。

 今月11日、東日本大震災が発生した日本時間午後2時46分に合わせ、練習拠点カナダ・トロントの深夜午前1時46分から2分間、日本の方角を向いて黙とうをささげた。サルコーは、自身も被災した震災から、前に進むための道しるべになったジャンプだった。

 当時拠点だった仙台のリンクが使用できなくなり、幼少期に師事した都築コーチを頼って横浜市のスケート場に。精神的につらい時期、ひたすら取り組んだのがサルコーだった。新たな課題に、競技で新たな1歩を踏み出したことが、震災からの1歩にもつながっていった。

 現行の採点法では9大会で1度だけだった逆転優勝。大差の約7点をひっくり返してのヤグディン以来の3冠の快挙は「楽しむのは大事だけど時には絶対に負けたくないとか、怒りの感情に身を任せて気持ちに正直になった方が良いのかな」とつかんだ。そんな新境地を開いても、まだ19歳。絶対王者となるため、どんな逆境でもはね返していく。【阿部健吾】