女子SPで、紀平梨花(16=関大KFSC)が自身で持つ現行ルールの世界最高を1・46点更新する83・97点を記録し、トップに立った。

今季苦戦し続けたSPでのトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に最終戦で成功。2連覇を目指す日本に12点をもたらした。14日のフリーは3回転半2本を予定し、ザギトワ(ロシア)の持つ世界記録更新も視野に入った。坂本花織(19=シスメックス)も自己記録の76・95点で3位に入った。

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紀平が悪夢を振り払った。演技冒頭、しんみりとした曲調の「月の光」にアクセントを加える3回転半。美しい回転軸に乱れはなく、氷をしっかりつかんだ着氷に会場が沸いた。いつもは演技中に崩さない表情も、最後の3回転ルッツを決めると笑顔になった。世界最高得点更新の勲章もつき、「『やった~』っていう一言。うれしかった」とガッツポーズも飛び出した。

舞台裏ではピンチに陥っていた。直前の6分間練習は最後の3回転半で転倒。本番滑走までの20分間で1度靴を脱ぎ、繊細な感覚を合わせるために用いるテープを巻き直した。強かったテープを緩め「ギリッギリのギリギリセーフ!」。心を整えると、今年に入ってから4大陸選手権、世界選手権とミス続きだった大技を決めきった。

強みはスケートに真正面から向き合えること。それは昨年12月のグランプリ(GP)ファイナルを制し、時の人となっても変わっていない。シニア1年目を猛スピードで駆け抜けながらも、シーズンオフの楽しみは「ダンス(のジャンル)をいっぱい増やしたり、映像をいっぱい見たい。シーズン中は何日かに1回『あれこれしたいな』って思うけれど、ペースを崩せないので」とサラリと言う。

浜田美栄コーチも「梨花ちゃんの姿勢は変わらない」と、16歳とは思えない意識の高さに感心した。 スケートの神様は、そんな努力家にほほえんだ。最後の「月の光」を最高の形で締めくくり「これ(靴のテープの加減)を覚えておいて、フリーは(3回転半を)2本挑戦したい」。キラキラと輝く目は、さらに高みを捉えた。【松本航】