<テニス:全米オープン>◇28日(日本時間29日)◇米国ニューヨーク◇男子シングルス2回戦

私は錦織を「間と場の魔術師」だと思っている。第4セットの第3ゲーム。積極的にネットに出て30-15とリードした後、ベースライン上でフォアのエアKを見せた。クラーンのバックを狙って体勢を崩し、ポイントにつなげた。こんな深い位置からの放つエアKは珍しい。

この試合、錦織は決して同じボールを続けて打たなかった。(1)速さ(2)コース(3)高低(4)タイミング(5)打点(6)深さ(7)角度(8)回転(9)回転量で変化をつけた。狙いは強打者クラーンのタイミングを狂わせ、ベストスイングをさせないことだ。エアKも多くの変化の要素が詰まったショットだった。ボレーやドロップショットも同様だ。

イレギュラーバウンドが起こりにくいハードコートと相手のプレースタイルを考慮した戦略で62の凡ミスを引き出した。一方的なリードから自らのミスでペースを失ったことは反省点だが、「間と場」でコートを支配する錦織の特長がよく表れた試合だった。(亜大教授、テニス部総監督)