新型コロナウイルスに見舞われた2020年。羽生結弦は、何を考えていたのか。延期された東京五輪、3連覇が懸かる22年北京五輪への思い。感染拡大下の自粛生活。そして、最終目標に掲げた世界初のクワッドアクセル(4回転半)成功-。約10カ月ぶりに報道陣の合同取材に応じ、この1年間と未来像を語った。

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来年3月の世界選手権は目指す。その先…つまり北京五輪はどうするのか。最初の質問で単刀直入、聞かれた羽生は「まずは世界選手権があるかどうかが最も大事。GP(グランプリシリーズ)も含め、どうなるか。その先はまだ分かんないです」と言葉を選んだ。

さらに突っ込まれる。羽生の中で北京五輪の位置付けは。「率直に言うと、東京(五輪)ができていない」と国内の夏季大会に触れた。コロナ禍のことが常に頭にある。「僕の思いとしては、そこで冬の五輪のことを考えている場合じゃない。スケーターの1人として言えば、競技の最終目標として開催してもらいたいし、出て優勝したい思いはもちろんある。ただ、東京すら開催されていない現実がある。(出場に当たり)ワクチンを強制的に受けなくてはいけないかもしれないし、観客の有無や収支も含めて開催されるべきなのか。自分が出る出ない、そこまで現役を続ける続けない、ではなく、個人的に『北京五輪を考えてはいけない』というリミッターが掛かって、そこに向けてはシャットダウンしている」。

ならば最終目標は? これには即答した。「4回転アクセル(4回転半)を試合で降りたい。自分の心にうそをつかないのであれば、それがないと、この世の中でスケートを頑張る理由、この社会の中で押し通してまで練習させてもらう理由がなくなっちゃう。手すりもないくらい壁は高い。でも幻想にしたくない。壁がない、壁の先を見たい。それだけが今、この世の中で自分がスケートをやれる理由」と率直に打ち明けた。

習得状況は「まだ1度も跳べてないです」。着氷時の衝撃も大きく、今大会に向けてはトレーニングを封印した。「やらないと決めて試合用の体づくりを」。年が明ければ「またアクセル用の体づくりをしたい。感覚が変わっていると思うので、回復し次第」とし「もしプログラムに入れるなら1発目」とも明かした。

コロナ禍の今年は国内にとどまり「スケート以外、本当に一切、外出していない」。拠点のカナダ・トロントにいるより「スケートに集中できたかな」と言えるほどストイックな生活を送った。「家族と過ごす時間も増えた。だんらんが楽しいわけではなく一緒にスケートのことを考え、サポートしてもらった。財産になる」と感謝。状況次第だが、海外に戻る可能性については「トロント、日本に関係なくこの1年の試行錯誤を生かす。4回転半を降りるための練習をしたい」と本質にフォーカスした。

9月には早大人間科学部(通信教育課程)も卒業。「おかげさまで。卒業論文については、いずれ発表するかもしれないし、しないかもしれない。考え得る限りの研究をしたので、自分の練習にもつながるし、何よりルールが分かりやすくなるかな」。AI採点などを競技発展に貢献する夢もある。「いずれ現役を退いてプロになって指導者になった時、切り開く材料になれば」-。これが、世界が変わった20年に羽生が考えていたことだ。【木下淳】