阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)がアスリートに迫る「鳥谷敬VSパリ五輪の星」。

第6回はスポーツクライミング女子のホープ、伊藤ふたば(20=TEAM au)の今に迫った。東京五輪は代表選考基準を巡る裁判の末、不運な形で出場チャンスを逃した(※1)。2年後のパリに向けた本音を聞いた。【取材・構成=佐井陽介、松本航】

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鳥谷 初めまして! まずはクライミングとの出会いを教えてもらえますか?

伊藤 父が趣味でクライミングをやっていて、特殊な形のクライミングシューズに興味を持って。小学2、3年の頃に連れて行ってもらってハマりました。

鳥谷 初めて登った時は怖くなかったですか?

伊藤 元々高いところが好きで(笑い)。最初からすごく楽しかったです。出身が岩手の田舎で、小さい頃からお兄ちゃんと木登りしていたので(笑い)

鳥谷 クライミングの魅力はどんなところですか? 先ほど実際にやらせてもらったけど、登れそうで登れなくて…(笑い)

伊藤 全然できなかったモノができるようになった時の達成感とか。子供から年配の方まで幅広い年齢層に楽しんでもらえるのは魅力かなと思いますね。

鳥谷 逆に嫌なところもあったりしますか?

伊藤 肩幅とかが大きくなっちゃって服選びが難しいのはあります(苦笑い)

鳥谷 それぐらいなら好きなら続けられますね。髪もすごくおしゃれですね。競技をアピールすることも意識されているのですか?

伊藤 はい。自分を見せることもすごく大事。個人スポーツなので、自分の得意な部分、個性は出していきたいなと思っています。

鳥谷 17年のボルダリング・ジャパンカップを史上最年少の14歳9カ月で優勝。一気に注目度が上がって大変じゃなかったですか?

伊藤 最初はすごく戸惑いました。それまではクライミング自体の認知度が低かったのに、いきなり街を歩いていて声をかけていただけるようになったので。

鳥谷 正直しんどくなかったですか?(笑い)

伊藤 ビックリはしちゃいましたね(笑い)

鳥谷 東京五輪でクライミングが競技に採用された後は、競技人口自体も増えた感覚がありますよね。

伊藤 私が始めた頃は「クライミングって、何?」だったけど、今は分かってくれる方が増えました。どこのジムに行っても初心者や新規の方が多くて、サインを求められることもあります。うれしいことです。

鳥谷 東京五輪ではスピード、ボルダリング、リードの3種目複合で競っていました。それがパリ五輪はボルダリング、リードの2種目複合とスピード単種目に分かれるそうですね。

伊藤 はい。私は今、2種目複合で戦っています。

鳥谷 スポーツクライミングは心技体でいったら何から重要になりますか?

伊藤 う~ん…そのまま心→技→体かもしれません。技術や体が出来上がっていても、メンタル面に懸かる比重はすごく大きいと感じます。時間内に登り切らないといけなかったり、リードだったら1回しかトライできない中で、いかにパフォーマンスを出せるかが大事になってくるので。

(後編に続く)

【鳥谷敬×伊藤ふたば】後編はこちら>>

 

※1…伊藤は19年の東京五輪予選を制して日本代表残り1枠を争っていたが、国際連盟は五輪出場基準の解釈を変更し、19年世界選手権日本勢男女上位2人で確定とした。日本山岳・スポーツクライミング協会はスポーツ仲裁裁判所へ提訴も棄却。

 

◆伊藤(いとう)ふたば 2002年(平14)4月25日、岩手・盛岡市生まれ。小3から父の影響で競技を始める。パナソニックCMで女優の綾瀬はるかと共演も。17年ボルダリング・ジャパンカップに史上最年少14歳9カ月で優勝。岩手・盛岡中央高を経て21年からプロ。好物はガトーショコラ。161センチ。

 

◆伊藤の今季 国内のパリ五輪強化選手トップのSランク(2人)に位置。ボルダリングW杯6戦、リードW杯6戦に出場し、最高はボルダリングが4位、リードが14位。10月20~22日には地元の盛岡市でパリ五輪と同じ方式となる複合W杯が行われる。五輪代表選考は23年から本格化する。

 

◆スポーツクライミング 2人で高さ15メートルの壁を登る速さを競う「スピード」、高さ4~5メートルの壁に作られた複数の課題(コース)で制限時間内の完登数を争う「ボルダリング」、高さ12メートル以上の壁で登った高さを競う「リード」の3種目で構成。東京五輪は3種目の複合を実施。パリ五輪は「スピード」の単種目と「ボルダリング」「リード」の複合が行われる。