種目別決勝の女子平均台で渡部葉月(18=中京ク)が13・600点で金メダルを獲得した。日本女子の金メダルは4人目で、渡部の18歳3カ月は最年少となった。同種目での日本勢の金メダルは、前回21年北九州大会での芦川うららに続き2大会連続。

宮田笙子(18=鯖江スクール)も13・533点で銅メダルを獲得した。男子個人総合金メダルの橋本大輝(21=順大)が鉄棒で銀メダルを獲得した。

 

5番目に演技した渡部の表情が、少しずつ驚きと動揺でこわばっていった。最終演技者の宮田を残しても首位のまま。この時点で、日本女子の平均台連覇は決まった。宮田の点数が表示され、渡部の金メダルが決まると、そのまま両手で顔を覆った。「驚きとうれしさで涙が出た」。

足の震えが止まらなかった。渡部にとって、平均台は10月30日の予選を戦って以来の演技。団体とは違い仲間のいない初の個人戦決勝、それも世界の頂点を争う、初めて味わう緊張感だ。「今までで一番緊張して、演技中の脚の震えもすごかった」。

強豪が次々と落下する中、しっかり最後まで演技し切った。技の難しさを現すD得点(難度点)は5・5点で出場8人中、下から2番目。しかし、技の完成度を評価するE得点(実施点)は8・1点で最高。美しい体操で世界の頂点に立った。

まさにシンデレラ・ストーリーだ。

渡部は、今年の全日本、NHK杯ともに個人総合4位で、当初は今大会代表の補欠だった。「この舞台で演技することも想像してなかった」。しかし、大会前の国内での事前合宿で、代表の笠原有彩(レジックスポーツ)が左ひざ前十字靱帯(じんたい)を損傷。代表から離脱し、補欠から代表に繰り上がった。

体操は2歳で始めた。名古屋市立平針小時代はケガが多く、すぐにやめることも考えた。しかし、同小時代に、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ両オリンピック(五輪)代表の寺本明日香の練習相手に選ばれたことで、体操のおもしろさを知った。それ以来、憧れの選手は寺本だ。

元々は、個人総合で世界を狙いたい思いを抱いている。そのためにも「次は最初からメンバー入りし、個人総合でも世界で戦える選手になりたい」。今大会では逃した24年パリ五輪団体出場権を来年獲得するためにも、欠かせないシンデレラの誕生だ。

 

◆渡部葉月(わたなべ・はづき)2004年(平16)8月7日生まれ。名古屋市出身。姉の影響で、2歳で体操を始めた。14歳だった19年NHK杯で6位と健闘。21年全日本ジュニア選手権で個人総合優勝。今年の全日本選手権、NHK杯はいずれも4位。愛知・東海学園高3年、中京ジムナスティッククラブ所属。159センチ。