<アジア大会:柔道>◇16日◇中国・広州

 柔道女子48キロ級の福見友子(25=了徳寺学園職)が「疑惑の判定」で金メダルを逃した。地元中国の呉樹根との決勝は、ポイントこそ奪えなかったが、積極的に技を仕掛け、優勢に試合を進めた。だがゴールデンスコア(GS)の末の旗判定で1-2でまさかの敗戦。代表首脳陣も「100人が見たら100人が福見の勝ち」と激怒。今大会は7個の金メダルを獲得したが、お家芸の階級で後味の悪い結末となった。

 1-2の旗判定を見て、福見はぼうぜんと立ち尽くした。有効ポイントこそなかったが、小内刈りを積極的に仕掛け、GSでは3度も相手の体勢を崩した。だが福見がともえ投げから寝技に引き込もうとして相手の下になるだけで、呉の優勢と勘違いした大観衆が沸く。その歓声に惑わされたのか、モンゴル人主審と韓国人副審が呉に旗を上げた。到底、受け入れられない。「自分の中では勝ったと思ったけど、投げないと意味がない。負けと同じです」。福見は怒りの矛先を自分に向けるしかなかった。

 代表首脳陣の怒りは収まらなかった。吉村和郎強化委員長は「あんな判定をしていたら中国自体が疑われる。100人が見たら、100人が福見の勝ちだと言う」と吐き捨てるように言った。女子代表の園田隆二監督も「審判の判定は絶対と言うけど、誰もが『負けた』という試合じゃない。相手が逃げる中で、しっかり攻めていた」と福見をかばった。

 地元寄りの判定が下される傾向にあるが、モラルの低いシーンが目立った。帯をわざわざ外して道着を直す露骨な呉の時間稼ぎに対し、主審は注意もしない。畳の外にいる地元の係員が観衆の声援をあおり、呉勝利の瞬間には跳び上がって喜んだ。そこに礼節を重んじる柔道の世界はなかった。

 今大会は9月の世界選手権に出た審判員は数人程度。00年シドニー五輪で篠原対ドイエの「世紀の誤審」の時にテレビ解説で「これは誤審です。明らかな誤審です」と毅然(きぜん)と言い、今大会は審判を務める岡田弘隆氏も身内に対して厳しかった。「少なくとも決勝を務めるレベルの審判ではなかった」。

 全日本柔道連盟は正式な抗議はせず、ジュリー(試合を管理、統括する審判員)への判定の確認にとどめる意向。世界選手権銀メダルに終わり、谷亮子引退表明後の初戦で、後継者として期待される福見にとって傷心のアジア大会となった。【広重竜太郎】