鳴尾浜球場のスタンドがざわついた。場内放送で「ピッチャー・松坂」のアナウンスがあった瞬間だった。話題の人である。つい、全盛時のピッチングとダブらせて注目したが、やはり、当時の迫力には欠ける内容だった。調整のために1イニング投げただけで交代したが、果たして復活は……。
それより、公式戦初お目見得のソフトバンクだ。チーム作りには定評があり、若手の成長に目を向けてみた。やはりいた。真砂勇介外野手(21)である。185センチ、80キロの恵まれた体。右投げ、右打ちで背筋力220キロという怪力の持ち主でもある。高校通算52ホーマー。長打も持ち合わせた逸材。今季で4年目。京都は西城陽からドラフト4位で入団した選手。1年目は3軍でじっくり鍛えた。現在は野球漬け。練習に実戦に全力で取り組んでいる。「シーズンにはいってからは、そこまでやっていませんが、キャンプ当時は毎日1000スイングを目標に素振りしていました」真砂である。継続は力なり。努力の結果は数字になってはっきりあらわれている。
ウエスタン公式戦全24試合に出場。96打数、31安打。打率3割2分3厘。そして3本塁打を放って11打点。打順は1番に定着しての成績と昨シーズンまでとは雲泥の差だが、藤本バッティングコーチが言う「まだ発展途上の選手です。今季の終盤ぐらいに1軍へ行けたら」が現在の実力。さらなる進歩が望まれる立ち場だが、進化するためには練習と実戦において心、技、体。そして頭を鍛えていく必要がある。かつての野村監督から阪神時代、時々聞かされて納得した言葉で「1軍で活躍するための力を“10”とすると、練習で得られるのはそのうちの“3”といったところかな。あとの“7”は実戦によるところが多いわけだが、でも、練習で得た“3”がないと“10”まで進んでいかんのや。だから、練習がいかに大事であるかということや」がある。実にわかりやすいアドバイスで若い選手は練習と実戦に全力投球あるのみなのだ。
真砂は今、まさにその立ち場にある。大成するか否かの分岐点。節目、節目で己を鍛え、力を付けて這い上がらないとレギュラーは見えてこない。自分のためとはいえ言うは易く行うは難しだ。誰もが経験しているだろうが、練習というものやっても、やっても自分が目指す形が見つからないときがある。お手上げ状態。ときには「自分にはセンスがないのか」と半ばあきらめの境地に陥ることさえある。ここで己に妥協するなら野球人生は終わるが、ここで自分に打ちかちさらなる努力を重ねていくと、ある日突然「これだ」というヒントを得るのだが、そのヒントをつかめるのがいつなのかはわからない。だから練習は苦しいしつらい。踏ん張りどころだ。
いかに自分に打ちかつか、妥協しないかが浮沈のカギ。この世界で活躍していく一番大きな継続する力は、1人ででもしっかり練習できる選手が持つ。そういう意味で真砂が現在結果を出しているバッティング面を指導している藤本コーチの「ぐっと成長してきましたねえ」は自分に打ちかって厳しい練習に取り組んでいる証し。首脳陣のこういう言葉は選手をきっちり見定めているから確か。「ロングティーなんかやらせたら、柳田に匹敵する飛距離が出ますし、守りは肩もいいしもう1軍でも通用します。問題はバッティングで、ちょっとヒッチが大きくてバットの出が遅いというか、なかなかすっと出てこなかったんですが、欠点を直すより長所を伸ばそうと思って、ヒッティングポイントを少し前に置くようにしたら、バットの出がスムーズになって欠点が直ったんですよ。最近では1軍コーチの間でも真砂の名前が出るようになりましたからね」(同コーチ)成長の度合いがよくわかる。
真砂本人も気合い十分。鳴尾浜球場では2試合連続ホーマーを放った。攻守交代時にはジョギングではなく、早足で守備につきベンチへ帰ってくる。見ていて若者らしさが表面に出ていて好感が持てる。「今年はいいスタートが切れました。テーマはやはりバッティングですが、ヒッティングポイントがつかめてきたのがいい結果になっています。いまは毎試合起用していただいていますので、気持ちの上でも張りがありますし、やり甲斐もあります。盗塁ももっといいスタートが切れるように心掛けています。目標はやはり1軍ですが、とにかく今シーズンは4年目ですし、自分の存在感を首脳陣にアピールしていきたいです」(真砂)3拍子揃っている。魅力十分。今季を追いかけるのに値する選手と見た。



