<日本シリーズ:巨人1-4西武>◇第6戦◇8日◇東京ドーム

 西武が岸の力投で日本一に逆王手をかけた。1敗もできない第6戦の4回1死一、三塁、一打同点のピンチで渡辺監督が先発帆足から岸孝之投手(23)にスイッチした。2勝2敗のタイに持ち込む完封勝ちから中2日ながら、切れ味鋭いカーブで9回まで巨人打線に1点も与えず投げ抜き、再びチームの窮地を救った。180センチ、68キロの細身右腕の今シリーズ2勝目により、西武が9日の第7戦に勝てば4年ぶり13度目の日本シリーズ制覇が決まる。

 分かっていても、かすらせない。9回1死一、三塁。1発が出れば同点の場面。東京ドームに張り詰める異様な雰囲気も、岸には関係なかった。自信を持ってカーブを多投し、最後は木村拓、鈴木尚を連続三振。「ここまで来たら日本一になりたかった」。気持ちを奮い立たせ、シリーズ2勝目を挙げた細身の右腕は、グラブをたたいて喜んだ。

 プロ初のリリーフ登板は、中2日のマウンドだった。第4戦で147球を投げて完封。「7、8回くらいからひじが張ってたけど、監督が最後まで『いけ』と。周りが盛り上げてくれて、それに乗っかりました」。4回途中のピンチから、9回まで0行進。91球の熱投で、無失点記録を14イニング2/3に伸ばした。「やばい、ドッと疲れがきました」。球場を出るころには、疲れとともに大仕事の充実感が押し寄せてきた。

 ブレーキの利いた落差のあるカーブが、威力を発揮した。「おまえの一番いいボールはなんなんだ。それを生かすための投球を考えろ」。シーズン中から小野投手コーチに言われた言葉を思い出した。「カーブがいい感じで、銀(仁朗)もよく気づいてくれた」。正捕手・細川は右肩を痛めて欠場。初先発でマスクをかぶった21歳銀仁朗と23歳の若いバッテリーの意思は通じ合った。最高の持ち球カーブを中心に大胆に組みたて、巨人を4安打6奪三振に抑え込んだ。

 渡辺監督の大胆な采配が、逆王手を呼び込んだ。3-1の4回1死一、三塁。毎回ピンチを背負う先発帆足をあきらめ、思い切って岸を投入した。「いいところで岸を出すのは、試合前からのプランだった。中2日だったけど、強い気持ちで抑えてくれた」と絶賛した。調子のいい選手を惜しみなくつぎ込むのは短期決戦の鉄則。「シリーズ男」に指名した2年目右腕が、大舞台で覚醒(かくせい)した。

 継投のタイミングは悩んだ。「打席が回って来るたびに、いつ代えようか代えようかと思ったけど、流れが変わると思ってやめた。送り出す時に、お前に任せたと言った手前、最後は岸と心中だった」。3点リードの最終回、守護神グラマンも控えていたが、岸を続投させた。「采配で失敗する場面があるとしたら、中継ぎの気持ちを考えた時」。シーズンを通して毎試合準備し、苦労をかけてきた中継ぎ陣を思えば、苦渋の選択だったが、非情になりきった。

 第5戦で1発を放ったベテラン平尾を先発起用すると全4打点を挙げた。02年、巨人に4連敗した悔しさを知る数少ないメンバー起用が的中すれば、スクランブル登板させた岸は、巨人の名前にひるまない快投を見せた。逆王手であと1勝。なりふり構わぬ総力戦となるが「明日?

 ノーコメントです。応援しますよ」。小さく笑った岸が、日本一への大きな流れを引き寄せた。【柴田猛夫】