コクーン歌舞伎「四谷怪談」(6月6~29日、東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーン)に出演する中村鶴松(21)の登場です。18代目中村勘三郎さんの教えを胸に、古典の名作を新たな切り口で構成した同演目で、初めての役に挑みます。

 稽古場に行くと、鶴松が目いっぱいの笑顔で自転車に乗って現れた。近所の公園で撮影を行い戻ってきたところだった。取材が始まると、笑顔がきりりと引き締まった。「四谷怪談」では、お梅に初役で挑む。主人公の民谷伊右衛門に、怖いほど純粋な恋心を抱く役だ。

 「ピュアな恋の気持ちが伊右衛門を狂わせてしまうというところは古典と同じなのですが、今まで舞台で見てきたお梅を全部忘れて、一から作り直そうとしています。難しいです」

 資料もたくさん読み込んだ。イメージを何パターンも考え試行錯誤してきた。シンプルなところに行き着きそうだった。

 「ただただ伊右衛門を好きという気持ちだけでいいのかな、と思いました。串田(和美)さんからは、『告白する時は、緊張してせりふが言えなくなるくらいでいい』って。本当のお芝居は何なのかと、串田さんの演出で学べます」

 役の心情を徹底的に理解し、気持ちの大切さを教えてくれたのは勘三郎さんだ。小学5年の時に勘三郎さんの部屋子になり、いつも言われていたのが、気持ちの大切さだった。

 「気持ちをとても大事にされていて、型にとらわれたりすると怒られました。今も気持ちを一番に考えますね」

 勘三郎さんが見ていたら何と言うだろうと考える。

 「毎日、常に考えています。何をするにも。『今のお芝居どう思われたかな』と。おにいさんたち(=中村勘九郎、中村七之助)にも言われます。僕が下手なことしたら、『おとうさんだったら怒ってるよ』って」

 現在は女形、立役ともに演じる。女形がやや増えてきた。

 「両方できてもいいのかなと思いますけど、中途半端になってしまうようだったらどっちかにしなきゃいけないかもしれません。女形は、細かい動作、目線、手の置き所、全部が気を抜けないですが、それがすごく楽しいです。立役は単純にかっこいい! と思いますから。勘三郎のおとうさんを見て、パワーがすごかったので自分もやりたいと思っていました」

 現役の早大4年生。卒業はもう1年先になりそうだと苦笑いしたが、大学でも演劇を学んでいるので、芝居に生きることばかりだ。

 「歌舞伎以外のジャンルの演劇、いろんなことを学べるので、きちんと卒業したいですね。周りも演劇好きですね。コクーン歌舞伎を見にきてくれた友達が歌舞伎にはまっちゃって、今では七之助のおにいさんを出待ちするまでになったんです(笑い)」

 今後は世話女房も演じてみたいし、「髪結新三」の新三のような小悪党もやってみたいという。勘三郎さんの教えを胸に、挑戦は続く。【小林千穂】

 ◆中村鶴松(なかむら・つるまつ)本名・清水大希。1995年(平7)3月15日生まれ。屋号は中村屋00年5月歌舞伎座「源氏物語」の竹麿で、本名で初舞台。05年に18代目中村勘三郎さんの部屋子になり、同年5月歌舞伎座「菅原伝授手習鑑」車引の舎人杉王丸で2代目中村鶴松を名乗る。昨年は「阿弖流為(アテルイ)」で翔連通を熱演。中、高校時代は陸上部で中距離専門。好きな芸能人は広瀬すず。趣味は旅行。海が好きで、今年3月にはグアム旅行も。165センチ、50キロ、血液型B。


○…コクーン歌舞伎が始まったのは94年。中村勘三郎さんと演出の串田和美氏のタッグで旗揚げされた時の演目が「四谷怪談」だった。コクーン歌舞伎の原点とも言える演目で、今回は94年、06年に続いて10年ぶり3回目の上演。お岩の妹お袖(中村七之助)と、人を殺してまでお袖を手に入れようとする直助権兵衛(中村勘九郎)を軸に描く。民谷伊右衛門は中村獅童、お岩を中村扇雀が演じる。