<東京マラソン>◇23日◇東京都庁前-東京ビッグサイト(42・195キロ)

 伏兵が「川内世代」のトップに躍り出た。マラソン3度目の松村康平(27=三菱重工長崎)が、2時間8分9秒で日本人トップの8位。自己ベストを2分3秒更新する初のサブテン(2時間10分切り)で、今秋のアジア大会(韓国・仁川)代表最有力候補に浮上した。男子はディクソン・チュンバ(27=ケニア)が2時間5分42秒、女子がティルフィ・ツェガエ(29=エチオピア)が2時間22分23秒で、ともに大会新記録で初優勝した。

 反骨の男が、有言実行に向けてひた走る。30キロでペースメーカーが離脱。一気にアフリカ勢がペースを上げる。ここで松村は冷静になれた。「思ったほど離れていない。何とかなる。落ち込みもない」。隅田川の川面を走る風も心地よく感じた36・5キロ過ぎ。日本勢トップの黒崎を抜く。その2キロ後には、ロンドン五輪銀のキルイも置き去る。2日前の会見で話した「8分台のレースを目指す」の目標を、現実のものにした。

 その招待選手会見。欠場した中本、佐藤の「代打の代打」の形で、華やかにショーアップされた席に座った。場違いを感じてか「実績で見劣りするのは分かっている」と話した。関係者が披露した漫画に描かれたのは、キルイが余裕でゴールし、藤原と初マラソンの宮脇が懸命に追う姿。そこに松村はいない。「コメントを求められて正直、悔しかった。走りで見返すしかなかった」。反骨心を胸に痛快なリベンジ劇だった。

 過去のマラソン練習で7回だった40キロ走を8回、さらに新しく熊本・天草の海岸コースも走破。アップダウンもあり風対策も万全に施し「質も向上し脚力がしっかりついた」と自信を胸に挑んだ。ただ、それ以上のバネになったものがある。

 中学時代は佐藤、高校と大学は竹沢、そして「実業団になってからは堀端選手と川内選手が出た」という同学年の存在だ。「日本代表レベルの選手に、どうしても勝ちたい。今日も初めて(佐藤)悠基選手に勝てたかもしれないので(欠場は)残念」。「選手」と敬称をつける謙虚さと、内に秘めた闘志で、マラソンの自己ベストで世代NO・1に立った。

 喜びに、いつまでも浸らないつもりだ。世界デビューの扉は開かれようとしているが「全体8位では勝負にならないし、このタイムでは安心もできない。今日の経験を来年、再来年に生かしたい」。リオの新星は自分に言い聞かせた。その実直さが、新たなパワーになるはずだ。【渡辺佳彦】

 ◆松村康平(まつむら・こうへい。)1986年(昭61)11月25日生まれ、大阪府高槻市出身。芝谷中から陸上を始め清風高-山梨学院大進学。箱根駅伝は3、4年時に1区を走り区間7位と4位。社会人3年目の12年2月の別大毎日で初マラソン(2時間11分58秒)。昨年は1万メートル(28分27秒4)と5000メートル(13分58秒34)で自己ベスト更新。176センチ、59キロ。血液型B

 ◆3大マラソン日本人サブテン複数人メモ

 日本勢5人で2時間10分を切ったのは、07年に始まった東京では初めて。東京、福岡国際、びわ湖の国内3大マラソンでは、福岡国際で03年大会に6人が達成。びわ湖では、12年に5人が10分を切った。

 ◆アジア大会男子マラソン代表選考

 福岡国際、東京、びわ湖毎日の3大会を対象に日本人上位3人から最大で2人を選考する。アジア大会で優勝すれば15年世界選手権(北京)の代表となり、世界選手権で8位以内に入った日本人最上位は16年リオデジャネイロ五輪代表に決まる。