<東京マラソン>◇22日◇都庁前~東京ビッグサイト(42・195キロ)◇曇り、気温16・5度、湿度73%、東北東の風1・6メートル(午前9時10分スタート時)

 日本男子マラソン界に、新星が登場した。初マラソンの前田和浩(27=九電工)が、2時間11分1秒で2位に入った。日本人トップとなり、8月の世界選手権(ベルリン)の代表に内定。終盤の向かい風でタイムは伸びなかったが、一時は先頭集団から離されながらも粘ってばん回した。「野人」と呼ばれる粗削りな走りで、世界舞台への挑戦権を手に入れた。

 野性味あふれる走りで、前田は風に立ち向かった。30キロすぎ、高橋のスパートについていったのはケニアの2人だけ。置いていかれた前田は35キロで15秒差をつけられたが、あきらめなかった。臨海副都心が近づくほど、海風が向かってくる。ライバルが苦しむ中、徐々に追い上げると、38キロ手前で高橋とコリルを抜いた。

 「離されないようにと思って、前へ前へと追う気持ちを忘れずに走りました。向かい風は、何回もくじけそうになりました」。日本人トップの2位に浮上した後、最後の2・195キロは全選手中最速の7分14秒でまとめた。初めてのマラソンで、世界選手権代表切符をつかみとった。

 日本陸連長距離・ロード特別対策委員会の河野副委員長は「体幹がぶれない。風が吹いても、ほどよい前傾があった」と評価した。一流の証しといえる1万メートル27分台を07年にマークし、世界選手権(大阪)に出場した。08年は5000メートルの記録が日本ランク1位。トラックで培った土台は、マラソンで生かされた。

 愛称は野人。「(チームの)先輩から、よく言われます」。武骨な顔立ち、やや長めの髪、筋肉質の体。佐賀・白石町の実家は米農家で、幼少のころは田んぼで野球をするなど、自然に足腰を鍛えてきた。綾部監督は「大きな試合でも物おじしない」と話した。

 マラソンの実績がなく、今大会は一般参加。招待選手用の高級ホテルに泊まらなかったが、この日の朝食を食べに行った。2人で5000円かかり、綾部監督から「高い飯食ったんだから、頑張れよ」と激励された。通常は午後3時まで業務をこなした後に練習するサラリーマン。「日本人トップで決まると思ってなかったので、これからのことは、監督と相談して決めたいです」。無印の実力者が、頭角を現した。【佐々木一郎】