試合を見ていて、今季の巨人が優勝できなかった理由がよく分かった。1点をリードされた6回2死二、三塁。原監督がマウンドに向かった。内野陣が集まり、監督からの指示を受けた後だった。それぞれが守備位置に戻るとき、坂本やマウンドの菅野に笑みが浮かんだ。あくまでも個人的な感情ではあるが、例えようもない違和感を覚えた。

緊張感はMAXの場面。ヤクルトサイドからすれば、1点をリードしているものの、3回と4回は無死二塁から追加点を奪えず、6回も無得点なら嫌な展開になる。一方、巨人サイドからすれば1死二、三塁の絶体絶命の場面から2アウト目を取った直後だった。

原監督がリラックスさせるために選手を和ませるようなコメントをしたのかもしれない。しかし指示を出している最中に笑顔を見せたわけではない。特に坂本は、自らのエラーが招いたピンチ。原監督がベンチに戻るため、背を向けて歩いているときの笑みだった。

その後迎えた西浦を申告敬遠で歩かせたが、9番の先発高橋には代打の切り札・川端が送られる予想はつく。間を取るためなのか、守備位置の指示なのか、配球の指示なのかは分からないが、作戦面以外の指示は考えられない場面。もし西浦勝負の方がいいと考えて笑ったのだとしたら、チーム方針に対しての笑みは不謹慎だろう。

そして川端には押し出し四球。菅野に余裕があるなら、この場面で四球を出すような投手ではないし、中4日で限界なのは明らか。当然、交代すると思っていたが続投。そして塩見には走者一掃の三塁打を浴びた。投手コーチが投手交代を進言しなかったのか、原監督が続投を決断したのかも分からないが、進言すらしなかった可能性もあると思っている。

なぜそう思うのかを説明しよう。3回2死三塁から村上を迎え、3ボールになったときだった。申告敬遠でよかったが、わざわざ外角へ外し気味に投げ勝負を避けた。同じようなシーンをシーズン中でも見たが、このようなケースでは、コーチの誰かが監督に申告敬遠を進言すればいいだけ。無駄球を投げる必要はなくなる。しかしCSでも同じように申告敬遠していないということは、誰も進言してこなかったのだろう。これではチームは機能しなくなる。

原監督の実力は他球団の監督と比べるまでもなく、頭ひとつ抜けた存在だろう。しかし実績を積み上げ、名声を重ね続けるうちに、コーチが監督に進言しにくくなっているのではないだろうか。たかだか申告敬遠するかどうかの進言すらできていないのなら、その可能性があると思ってしまった。

勝負事はプレッシャーとの闘いになる。どれだけリラックスして戦えるかが重要で、試合中に見せる笑みを否定するつもりはない。しかし、強豪チームというのは、笑って戦えないような場面をはねのけて勝たなければいけない宿命を持ち、楽しくやって勝てるという領域にはいない。それが強いチームであり、巨人はそういうチームだと思っている。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対巨人 6回裏ヤクルト無死二塁、一塁へ悪送球する坂本(撮影・たえ見朱実)
ヤクルト対巨人 6回裏ヤクルト無死二塁、一塁へ悪送球する坂本(撮影・たえ見朱実)