広島新井が今月5日、今季限りの引退を発表した。私たちの仕事上、人柄や存在を各所に聞き回るのだが、精神的支柱と言われる理由をあらためて認識した。時には年下であってもコーチにアドバイスを与え、投手には野手目線から言葉を投げかける。陰で支えるチームスタッフにも感謝し、食事会を開いていた。

佐竹健太打撃投手は現役時代、広島と楽天に所属。新井について「偉ぶらない。あれだけ長く現役をされている方は、皆さんそうです。松井稼頭央さんも同じ」と話した。フリー打撃の最初と最後には、新井から気持ちのいいあいさつが必ずある。大人としての礼儀と思うが、必ずしもそうではないらしい。

佐竹打撃投手が見てきた相手チームの中には、正反対の年長選手もいたそうだ。打撃投手の投球がコースを外れて激怒し、練習をたった1球でやめてしまう横柄な態度を目撃。聞いた実名は伏せるが、なるほど、イメージ通りだなと思って笑ってしまった。

これまで担当した球団の指導者から、何度か耳にした。「コーチが教えるよりも、選手同士が言う方が効き目がある」と。その中身は技術、メンタル、生活態度まで、あらゆる面に及ぶ。強い球団には試合に出ても出なくても影響力あるベテランが控えており、彼らの言葉が伝統として受け継がれていくのだと。

その点、新井貴浩という男は絶妙なバランサー。カープのある主力選手は「黒田さんがいなくなって、新井さんまで。一体どうなるんだろう」と心配そうに言った。今年のリーグ3連覇はもう間違いない。来年のテーマは「新井ロス」の克服…と言ったら、気が早すぎるだろうか。【広島担当 大池和幸】

ベンチで鈴木誠也(左)と談笑する新井貴浩(2018年8月29日撮影)
ベンチで鈴木誠也(左)と談笑する新井貴浩(2018年8月29日撮影)