思わず背番号を二度見してしまった。映像で再度、確認もした。仲間にバットを手渡した男の背中には、やはり「3」が刻まれていた。「勝てれば何でもいい」。開幕直前に語っていた大山悠輔の決意は、シーズン終盤になっても全くブレていなかった。

先週、虎の主将がついにトンネルを脱した。チームは週末、宿敵巨人との首位攻防3連戦に2勝1分けと勝ち越して首位再浮上。ナインが一丸となった劇的勝利が相次いだ1週間、中でも大山の働きぶりは圧巻だった。

9月1日の中日戦では決勝打。雨天中止を挟み、3日巨人戦では流れを一変させる同点二塁打。4日巨人戦では逆転サヨナラ2ラン。5日巨人戦でも同点の9回裏、二塁打で最後の好機を演出した。1日から4日まで、3戦連続で甲子園のお立ち台へ。いよいよ不振から抜け出た感がある主将の姿を追いながら、あのシーンが何度も脳裏によみがえった。

先日少し触れさせてもらった話で恐縮だが、あらためて詳細を振り返らせてもらいたい。8月31日、大山が先発落ちした中日戦での一コマだ。5点を追う4回裏無死。3番ジェフリー・マルテが三塁線へのファウルで相棒を折る。ここで代えのバットを片手にベンチから打席まで走ったのが、他ならぬ主将だったのだ。

通常、この役割はベンチスタートの若手が担うケースが多い。この日であれば小野寺暖、小幡竜平ら後輩に任せるパターンが定番だ。にもかかわらず、大山はチームスタッフからバットを受け取ると、当たり前のように「裏方役」を務めた。偶然マルテの道具一式の近くにいただけだとしても、なかなか主砲自ら率先して動けるものではない。

驚きの後、背番号3が常々強調する言葉を思い出した。

「長いシーズン、もしかしたら悪い時の方が多いかもしれない。そういう時に下を向いてしまったら、いい流れも来ない。無理やりじゃないですけど、ちょっと頑張って顔を上げるだけでも、もしかしたら変わってくるかもしれない」

自身に結果が出ていなくても、スタメンを外れていても、できることを前向きに全うする。嫌々でなくバットを持って駆ける姿に、有言実行という4文字がよく似合っていた。

結局、当日の中日戦は代打で空振り三振に倒れてチームも敗戦。それでもスタメン復帰した翌日9月1日中日戦からの活躍は前述した通りだ。全体練習前の打ち込みも含めた懸命な試行錯誤が、打開につながったのは間違いない。その上で、俗に言う「野球の神様」がちょっとほほ笑んでくれたのかな、なんて想像もしたくなった。

激闘の首位攻防3連戦を終えた後、カメラマンが撮影してくれた数枚の写真をあらためて見直した。4日巨人戦で逆転サヨナラ弾が飛び出した直後のシーン。ホームインした主将がペットボトルの水をぶっかけられ、もみくちゃにされる。仲間は皆、まるでわが事のように顔面をクシャクシャにして喜んでいた。

首脳陣も選手も関係ない。ベテランに助っ人、若手…立場の違いも関係ない。チームリーダーの劇的アーチに誰もが歓喜した理由に、少しだけ近づけた気がした。【遊軍=佐井陽介】