リグリーフィールドのクラブハウス。「米国の指導スタイル」について話を聞かせてもらっていた途中、カブスのダルビッシュ有投手(32)は小学5年時のほろ苦い記憶を脳裏によみがえらせた。
ある試合で先発マウンドに上がり、四球を連発しながら勝利した。すると当時の指導者から「投手クビ」を通告され、しばらく捕手に転向していた、と。「そういうことはこっち(米国)では絶対にないと思う。こっちの方がもっと楽しく野球をやっている」。当時の指導者たちの心情に一定の理解を示しつつも、そう言って苦笑いした。
大リーグでは、監督やコーチが命令口調で指導する場面に遭遇する機会は少ない。ダルビッシュいわく、意見を押しつける指導者は「いるのはいる」ものの「そういう人の数は日本に比べたら極端に少ない」とのこと。「こっちでは強制される確率はすごく低い。もっと相談されるような感じです」と説明してくれた。
「もちろん、みんながみんなそうじゃないけど。日本だと『お前は肩が開いているからもっとこうしろ』とか『こういう練習をしろ』とか、強制的な時もある。それで言うことを聞かなかったら、ちょっと扱いづらい選手みたいなレッテルを貼られてしまったりする。こっちでも教えてもらったら試さないといけない雰囲気はあります。でも、自分が『あんまりだな』と思ったら『分かった、分かった』と後腐れはない。『じゃあ次はこういうのをやってみない? オレはこう思うけど君はどう思う?』となる」
指導者と選手が、支配する側と支配される側ではなく、どちらかと言えば対等に近いイメージ。アマチュア球界でも傾向は近いものがあるという。
「米国の高校生を見ていると(日本の高校生より)もっと楽しくやっている。監督、コーチにも冗談を言えたりする」
それは指導者と選手がお互いにリスペクトし合っている証しなのかもしれない。
ダルビッシュは大リーグ移籍後、投げ負けた時に「自分の責任と言ってはいけない」と指摘されたことがあるらしい。日本では、たとえクオリティースタート(6回自責3点以内)をクリアしても、チームが負けたら反省の弁を述べる選手が少なくない。だが、米国の場合は違う。
「『ごめんなさい』と言ったら怒られる。『自分の結果、やったことに誇りを持て』と言われる」
そんな風潮も、指導者が選手の取り組みをリスペクトしているから成り立つ考え方といえる。(つづく)【佐井陽介】
◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。