侍ジャパン24人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる連載「侍の宝刀」。オリックス吉田正尚外野手(28)は、正確無比なバットコントロールで「頂」を目指す。

19年11月、プレミア12のオーストラリア戦で中前打を放つ吉田正
19年11月、プレミア12のオーストラリア戦で中前打を放つ吉田正

豪快に見える一振りは、緻密な計算の上に成り立っている。「最終的に、塁に出ることが『打席の中での勝利』だと思うんですよね。ヒットでも、四球でも。毎打席、何かコトを起こすために、打席に向かってます」。得点圏でも、チャンスメークの場面でも、コンスタントに結果を残す。1球1球、配球を緻密に考え、狙いを澄まして打席に向かっている。20年シーズンで1試合2三振以上は3度だけ。“三振しない男”と称されるのは、その積み重ねだ。

昨季の首位打者は、今季も打率ランキングのトップを走る。探究心が原動力だ。「打撃って面白い。昨日は打てたのに、今日は打てない…とかね。その繰り返しで次が大事。どう修正するかを毎日考えるだけ」。球場でも、自室でも、ときには食事中、就寝直前でも。欠かさず自身の打撃映像をチェックする。

「もちろん、状態がいいとき、悪いときはある。ただ、コンディションをしっかり整えて、その日のベストを尽くす」

ファンが求める芸術作品を、必死に仕上げる。「スタンドインした瞬間が打撃の完成形」だと常々、話す。「僕は、インパクトの瞬間に100の力をぶつけるだけ。フルスイングって勘違いされがちだけど…。フォロースルーは気にしていないんです」。だから“バット投げ”をしない。振り切ったバットは、その場にそっと置く。先端部分に土がつくため、ベンチに戻ると、笑顔で磨く。

ガッツポーズはしない。クールにダイヤモンドを1周する理由は「あまりグラウンド上で一喜一憂したくないなと。元々、感情を表に出すタイプではない。それに、相手に敬意を持ちながらプレーしたいなと。感情をグラウンドで表現するのは、自分のプレースタイルではない」ときっぱり。着弾を見届けると「(ファンに)喜んでもらえたかな」とホッとする。「本塁打数=強いスイングができている証し。芯に当てないとスタンドには届かない」。アーチを描いた後の声援、大きな拍手が、吉田正を、また強くする。

吉田正の主な国際大会成績
吉田正の主な国際大会成績

東京オリンピック(五輪)選出は、格別の思いだった。「嫁さんにも、両親にも、みんなに感謝を。僕よりも喜んでいるかもしれません。自分だけじゃないと改めて感じた瞬間でした」。7月7日には長女が1歳を迎えた。「金メダルをとってみせられたら」。磨いたスイングで、正尚パパが頂を目指す。【真柴健】