記者には「忘れられない味」がある。時に孤独に、時にワイワイと、あらゆる場所で、あらゆるシチュエーションで食する味は、取材の思い出として記憶と味覚に刻まれる。「忘れられない味 Season4」を、ご賞味あれ。
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野球取材にはおつまみが欠かせない。前任の相撲担当時代は数秒で決着がつくので気にならなかったが、野球の試合は5回あたりで口寂しくなる。空腹を紛らわせようとグミを食べていたこともあったが、減りが早くてコストパフォーマンスが悪い。腹持ちのいいサケトバやあたりめを持ち込んだら、周りにまき散らすにおいが強烈であえなく断念した。質と量を兼ね備えたつまみがないか探していたところ、西武の本拠地ベルーナドームでついに見つけた。
メキシコ料理「ケサディーヤ」だ。トウモロコシ粉でできたトルティーヤの生地に、チーズ、肉や野菜を挟んで焼き上げたファストフード。球場一塁側テラスに店を構える「L,sMEXICO(エルズメキシコ)」で販売している。
メニューはチキン、ビーフ、シュリンプ、チーズ&ハニー、ハラペーニョ&マンゴーと5種類。1枚1400~1800円とやや高めだが、直径20センチほどの大きさとボリューム満点。今季開幕からオープンすると、開店と同時に長蛇の列ができる。店によると、ケサディーヤだけで1日400~500枚が売れるほどファンの心をつかんで離さない人気商品だ。
記者がチキンとビーフの2枚を注文すると、店員さんがその場で焼き上げてくれた。鉄板から「ジューッ」と心地よい音が聞こえ食欲をかきたてる。できあがった1枚が素早く6ピースに切り分けられ、その1ピースを口に運ぶ。見た目はピザに近いが、生地は薄く食感は柔らか。中にチーズと肉がぎっしりと詰まって、かんだ瞬間に口いっぱいに芳しい香りが広がる。コーラとともに勢いよく胃に流し込むと幸せの絶頂に達した。
試合前に2枚平らげたのがいけなかった。満腹を通り越し、今度は睡魔との闘いを強いられた。血糖値の急上昇は健康上にもよくないと自戒。冷めてもおいしく食べられそうなので、試合中の小腹がすいた時のおつまみにピッタリだ。
ケサディーヤを知るきっかけは、試合前練習を終えた球団関係者の様子を見たことだ。スタッフが吸い寄せられるように一塁側テラスへと買い出しに向かい、ケサディーヤが入ったプレートを両手いっぱいに抱えて戻ってくる。そんな光景が気になって調べてみると、外国人選手たちを中心に試合前の食事として定着しているようだった。守護神アブレイユ投手(29)も注文する1人だ。「ホームでの試合前には大体ケサディーヤ1枚とブリトーを食べるよ」と紹介した。
ドミニカ共和国出身で来日1年目の右腕も、はじめは「日本食になかなか適応できなくて」と悩んでいた。だが、なじみのあるメキシコ料理のおかげで不安を解消した。「たまに他の選手にもごちそうしているよ」。日本人選手たちにもケサディーヤを広める橋渡しを担った。
本拠地最終戦があった1日。今季最後のケサディーヤを買い求めに店に訪れたのが、奥村光一外野手(24)だ。「(外国人選手から)一口もらったらおいしくて。栄養士の方に怒られたらいけないので、たま~に食べてますね」とチキン1枚を購入した。「ピザみたいだけど、ピザよりもあっさりしている。パリパリなケサディーヤが僕は好きですね」と魅力を惜しみなく語っていた。
映画にはポップコーン、ラグビーにはビール。では、野球には-。約70店舗、1000種類以上のメニューを取りそろえるベルーナドーム内で人気沸騰中のケサディーヤが、野球観戦のお供として定番となる日も、そう遠くないかもしれない。【平山連】(この項おわり)






