全国高校野球選手権は沖縄尚学の初優勝で幕を閉じた。酷暑の甲子園で球児を追いかけた担当記者が、書き残したエピソードを紹介する。

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県岐阜商・横山温大外野手(3年)に関する大会開幕前の報道を見聞きしながら、記者は不思議な感覚に陥っていた。生まれつき左手の指がないハンディキャップに驚くほど注目が集まっていたからだ。

同校はもともと藤井潤作監督(53)が掲げる「お祭り野球」の通り、打力が売りのチーム。中でも横山は今夏の岐阜大会でチームトップの打率5割超を記録していた。そんな彼は甲子園でも初戦から4戦連続安打をマークし、日大三との準決勝では先制の右犠飛も放った。19打数5安打3打点で三振は1つだけ。類いまれなバットコントロールを誇る選手がハンディキャップを抱えているのだから、初めて横山を知った人たちが驚くのも当然だった。

小学2年生 初めてグラブを買ってもらい、キャッチボール
小学2年生 初めてグラブを買ってもらい、キャッチボール
小学4年生 登板する横山。後ろの塁審は父直樹さん
小学4年生 登板する横山。後ろの塁審は父直樹さん
小学4年生 大会で銀メダル
小学4年生 大会で銀メダル

実は記者にも左手の指がない同級生がいた。母校の中学校軟式野球部のある選手。彼がハンディキャップを持っていた事実は卒業後に知った。別の高校に進んだ彼はいつしか地元の新聞やテレビで特集されるようになり、その記事や映像で左手に指がないことを初めて知ったのだ。

私たち同級生にとっての彼はハンディキャップに関係なく「野球のうまい子」だった。指がないことに注目が集まる状況に「本人の本望なのかな?」と感じた記憶がよみがえった。だからかもしれない。記者は今夏、どうしても横山の人柄や周囲との生活を掘り下げたくなった。

横山は大会中、シュアな打撃だけでなく、瞬時にグラブを握り変えて送球する姿でも周囲の度肝を抜いた。1試合1試合、勝ち進むごとに横山を取材する報道陣の数は増えた。そんな彼の人柄を知るため、記者は午前7時のアルプススタンドに走った。横山と2年半同部屋だという青山瑞歩投手(3年)に声をかけると、一高校生としての横山に近づけた気がした。

県岐阜商・横山とともに下宿生で2年半同部屋の青山(撮影・中島麗)
県岐阜商・横山とともに下宿生で2年半同部屋の青山(撮影・中島麗)

2人は入学初日の練習後、「県岐商、キツすぎんか?」と苦笑いで頭を抱えたという。「実力はみんなと変わらない。打つ時、左手は添えているだけに近くて、ほぼ片手打ち。普段は輪の中心にいて愛されキャラで人気者です」。青山はそう横山を表現した。

「温大はゲームが得意で、いつも自分がボロ負けする。マリオカートに大乱闘スマッシュブラザーズ、スプラトゥーン…。全部、温大が勝ってしまいます」

そんな風に日常を教えてくれた後、横山の強さも教えてくれた。

「本人は『自分は特別じゃない』と。1年秋までは投手で、ハンディのある野手に転向後も決して弱みを見せなかった」

8月19日、横浜対県岐阜商 4回裏県岐阜商2死一塁、左前打を放つ横山
8月19日、横浜対県岐阜商 4回裏県岐阜商2死一塁、左前打を放つ横山

横浜を破った準々決勝の直後、横山に好きな食べ物を聞いてみた。「母の作ったカレーライスです。下宿中も(母の)カレーを食べていて。カレーが一番です」。屈託のない笑みをこぼす姿から、横山の普段を感じることができた。

生まれつき左手指のないハンディキャップを抱えながら、強豪校のレギュラーの座をつかんだ。そんな彼の心の内まで伝えられるような書き手になりたいと、あらためて感じる夏になった。【中島麗】