阪神藤原オーナー(2019年3月6日)
阪神藤原オーナー(2019年3月6日)

日刊スポーツに入社して記者になった30年以上前、上司、先輩に「すごい」という言葉について教えられた。すごい選手、すごい歌手、すごい試合、すごい映画…。いくらでも並べられるがメディアで働く記者としては、これは全部、ダメだ。

「すごいって何や? さっぱり分からんやろ。具体的にどこがどうすごいのかを違う言葉で説明しないと新聞の記事にはならんぞ」。そんな感じで指導された。メディアとしては使えない言葉の代表格が「すごい」だ。

唐突にそんなことを思い出したのはこの日の日刊スポーツを読んで、だった。阪神のオーナーは藤原崇起だ。その藤原が22日に電鉄本社で虎番記者たちの取材に応じた。その中で戦力補強について問われたときに、こういう言葉を発したようだ。

「十分ですよ。すごいメンバーですよ」

これを知って、少し、考え込んでしまった。頭によぎったのはこういうことだ。トップのこの発言を聞いて、現場の責任者である指揮官・矢野燿大、あるいはフロントはどう思うだろうか。

あなたが中間管理職だとする。部下はかつては一流だったがいまはベテラン、さらに発展途上といった社員が中心だ。同業他社に比べても、正直、苦しい顔ぶれなのは否定できない。実際に業務成績も苦しんでいる。

そんなとき、あなたの会社のトップが他人に「おたくの社員はどうですか?」と聞かれたときに「すごいメンバーですよ」と胸を張ったという。これを聞いて、あなたはどう思うか、ということだ。

球団幹部にこの日、雑談がてら聞いてみた。「選手をリスペクト(尊敬)してもらっているということですから。いいんじゃないですか」。そういう話だった。なるほど。そういう考えもある。

阪神は快勝した。青柳晃洋が好投し、打線も相手先発のルーキー・上茶谷大河を打ち崩した。先週18日ヤクルト戦(神宮)で13得点を上げた勝利を思い出す。しかし19日からの巨人3連戦3連敗を思えば、そうは笑えない。横浜スタジアムでは打線がつながり、強い。本当にどこが本拠地なのか、と思ってしまう。

はっきり書く。日本プロ野球の常識に照らせば、いまの阪神で「すごい」と言える範囲に入るのはこの日、本塁打した福留孝介、さらに糸井嘉男というところだ。それでも、みんなで頑張れば、こんな試合だってできる。そして、これを続けていくことができれば…。ナイン全員を「すごいメンバー」と言える日もやってくる。(敬称略)

DeNA対阪神 DeNAを下し連敗脱出し喜び合う阪神ナイン(撮影・河野匠)
DeNA対阪神 DeNAを下し連敗脱出し喜び合う阪神ナイン(撮影・河野匠)