無情の快投に終わった。侍ジャパン大谷翔平投手(21)が、土壇場でヒーローの座を逃した。最速160キロをマークして7回1安打11奪三振と、韓国打線を完璧に封じたが、中継ぎ陣が崩れて白星を逃した。8日開幕戦で6回2安打無失点、10奪三振と封じ、リベンジに燃える相手との再戦で返り討ち。今大会で宿敵に2戦連続2ケタ奪三振、計13回無失点と力を証明した。チームは準決勝で敗退したが、17年WBCでの王座奪還へ希望の光をともした。

 大谷は、すがすがしく酷な現実を受け入れた。7回1安打無失点11奪三振。85球と余力も残して救援陣にバトンを渡した。逆転を許して準決勝で敗退したが、大谷は「自分が8、9回とか最後まで投げることができていれば良かった。信頼して、則本さんに託していたので」と、完投できなかった無力さを悔いた。

 完璧な内容で圧倒した。もっとも警戒した金賢洙から全3打席で三振を奪った。4番の李大浩を含む中軸から計5三振を重ねた。この日最速の160キロは計7球。大台到達は、公式戦を含めて今季では1試合最多と心身が乗っていた。速球で空振りを奪い、ファウルも誘った。自在にカウントを整え、4回まで直球とフォーク主体。5回以降にスライダーを織り交ぜる巧妙さで、リベンジに鼻息が荒かった韓国打線をいなした。

 日の丸を背負って世界で戦う怖さを知った。マウンドを降りた後、一塁側ベンチで見つめた逆転負けのシーンは印象的だった。「韓国はチーム単位で徹底して球種を絞ってきた。その団結力が、最後につながったのかなと思った」。肌で感じたムードは、異様だった。「初戦(8日)以上に、気持ちを高めた」。自身のスイッチを入れて“個”の勝負には勝ったが、チームを勝利に導き切れなかった。

 野望を達成する意欲が、また湧いた。日本ハム入団後の目標が「二刀流」を成功させ、いつの日かメジャーへ挑戦すること。同時に入団前から抱くもう1つ、かなえたい夢がある。少年時代から、あこがれていたWBCでの日本代表。2年後、17年に第4回大会が待つ。「まだまだ課題はいっぱいある」。才能にさらに磨きをかける経験を積んだ。大谷が、世界基準で羽ばたく足跡を刻んだ。【高山通史】

 ▼大谷が7回無失点。五輪(プロが参加した00年以降)、WBC、プレミア12で、日本投手の7回無失点は準々決勝プエルトリコ戦の前田に次いで通算7人目の最長タイ。7人のうち勝利に結びつかなかったのは大谷が初めてだ。2試合連続2桁奪三振は00年シドニー五輪の松坂以来2人目。5連続奪三振は、13年WBCキューバ戦の田中に並ぶ最多タイ。6回まで無安打は、08年北京五輪のオランダ戦で5回1死まで続けた杉内の最長を更新。1大会で13回連続無失点は、岩隈が09年WBCで記録した最長の12回1/3を上回った。