世界よ、これが日本のトリプルスリー侍だ。山田哲人内野手(23=ヤクルト)がプレミア12最後の戦いで長刀を抜いた。初回2死。左腕の内寄りに甘く入る139キロ直球を素通りさせるはずがない。腰を鋭く回し、美しい軌跡を左翼席中段に描いた。準決勝韓国戦の屈辱的な逆転負けで漂う重い空気を振り払った。「世界一を目指して負けてしまい、ショックで落ち込むところもあった。でも監督からも切り替えてやろうという話もあった。何としても勝つんだと」。過去から未来へ目を向けていた。

 大会中、打撃の型を微妙に変えていた。3番として12四死球を選択。「後ろには筒香、中田さんと調子のいい打者が多い。この20日間は出塁することにこだわり、得点に絡むことに集中した」。試合前まで8得点を踏む一方、0本塁打、1打点と本来の姿は影を潜めていた。だが最終戦で「振っていこう」と制御を解除。2回2死一塁でも左翼席に滞空時間の長い放物線を描いた。プロ選手が参加した国際大会では13年WBCのオランダ戦での阿部に続く、2打席連発だった。

 世界の目も認めた。約40年のスカウト歴を誇るメキシコのブリト監督は173勝左腕のバレンズエラ、5ツール・プレーヤーのプイグらをドジャースに導いた。81歳の老将は「すごいパワーヒッター。何歳か分からないが、ドジャースに来ても黒田のように活躍できる」と太鼓判を押した。

 戦いを終え、山田には新たな思いが芽生えた。「今回は負けられない試合で1球1球に集中してすごく疲れた。シーズンでしっかり活躍して、日の丸を背負いたい」。代表での居城を構え、世界での天下統一を目指す。【広重竜太郎】