下克上や! 阪神がDeNAとの接戦を制し、2勝1敗で5年ぶりのCSファイナルステージ進出を果たした。

8回に代走の植田海内野手(23)が決勝点のホームを踏むなど、矢野燿大監督(50)の采配が的中。シーズン奇跡の6連勝フィニッシュに続き、驚異的な底力を発揮した。9日から日本シリーズ進出をかけ、巨人と東京ドームで対戦する。

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攻める鬼と化した。阪神矢野燿大監督(50)は敵の弱点を突く。同点に追いつかれた直後の8回、大胆に動いた。

マウンドは決してクイックが巧みでないエスコバーだ。1死後、高山が死球で出塁すると俊足の代走植田を投入。梅野への初球だ。完全にモーションを盗み、二塁を陥れた。浮足立つ剛腕の暴投でさらに三塁へ。梅野の浅い中堅への飛球でも勝ち越しの生還。韋駄天(いだてん)の面目躍如だった。

雨中の大熱戦は1球も息つく間がなかった。矢野監督も放心状態だ。「こんな試合をしてくれて、スゴイなあ。うちの選手。(植田)海の足で取った1点。昨日もアウトになっているのに仕掛けるのもスゴイ」。伏線はプレーボールの2時間半ほど前にあった。練習前、矢野監督に声を掛けられた。「今日もスタートどんどん行っていいからな!」。荷は軽くなった。前日6日は1点を追う7回、代走で二盗に失敗していた。汚名返上の二盗になった。今季はリーグ最多のチーム100盗塁。3桁は03年以来、16年ぶり。今季12盗塁を記録した脅威の足が大一番で光った。

率先垂範して、選手を乗せるタイプの指揮官だ。人心掌握のヒントは書籍にも求める。「小説は読まないんだよね」。もっぱら、リーダー論やビジネス書を読みあさるという。松下幸之助、孫正義…。100冊ほど読破する。喜怒哀楽をあらわに戦う。あえて意識して振る舞う部分もあるだろう。あるとき、こう言う。「手本7、8割。信頼2、3割」。上司が部下を導く考え方の1つ。真っ先に自ら手本を示し、そして心を寄せる。ベンチでガッツポーズ、笑顔…。あるべき姿を体現して阪神を変えた。

よく笑うのも、根拠がある。「笑いは究極のパワーやからな。楽しくやると筋肉が緩む。筋肉が緩むと脳も喜ぶ」。力なき者は淘汰(とうた)される厳しい世界だ。それでも笑いの力を信じる。こうも言う。「フクソウとヒンソウって知ってるか?」。顔つきの話だった。福相と貧相。眉間にしわを寄せていては幸せは巡ってこない。この日も薄氷の戦いを制した。最後は笑顔で運を引き寄せた。【酒井俊作】

▼阪神が14年以来2度目のファイナルS進出を決めた。プレーオフ、CSで3位チームのファイナルS進出は両リーグ16度目で、セ・リーグは4年連続7度目。過去に3位で出場した時の阪神は07、15年とも1Sで敗退しており、3位からは球団初のファイナルS進出だ。3位からファイナルSに出場した過去15度のうち日本シリーズに進出できたのは10年ロッテと17年DeNAだけ。公式戦の阪神は69勝68敗1分けで、貯金1以下のチームが日本シリーズに出場したことはないが、今年の阪神はどうか。