阪神7年ぶりの高卒ドラフト1位選手となった創志学園・西純矢投手(18)。日刊スポーツでは西投手がプロ野球選手になるまでの軌跡を、座右の銘から「一以貫之(いちいかんし)~西の軌跡~」と題し、4回連載でお届けします。第1回は記憶に新しい今夏のU18W杯(韓国・機張)での大活躍。タフさに柔軟さ、そして気遣い…。大会を通して西投手の魅力に迫りました。【取材・構成=磯綾乃】

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「秋晴の候、永田監督におかれましては…」。9月中旬、U18日本代表監督・永田裕治氏(56)のもとに一通の手紙が届いた。白地で縦書きの便箋に、丁寧に紡がれた文字。差出人は、創志学園・西純矢だった。

「びっくりしました。そんな気遣いも出来るなんて。U18での経験への感謝などが書いてあって、私もとてもうれしかった」。

永田氏ら日本代表コーチ陣の指導、トップレベルの選手たちとかけがえのない経験が出来たこと。西の手紙には感謝の言葉が細かくつづられていた。U18日本代表が韓国でW杯を終えて帰国し、2日後のことだった。

最後の夏、西は岡山県大会準決勝で散った。それから約1カ月後、W杯に挑むU18日本代表に西の名前はあった。8月下旬、合宿が始まると永田氏は選手1人1人と面談を行った。「よう来たな。思う存分しっかり暴れろよ」。その言葉に「頑張ります」と答えた西。その誓い以上の活躍を見せることになる。

打っては、1次ラウンド・南アフリカ戦で2本塁打8打点と大暴れ。大会の本塁打王にも輝いた。投げても救援、救援、先発と怒濤(どとう)の3連投をものともせず。スーパーラウンドでも、韓国戦で先発の大船渡・佐々木が3球で緊急降板した後を託され、4回5安打無失点と好救援した。佐々木、星稜・奥川を差し置いてMVP級のフル回転。この大会で西はプロ球団からの評価をぐっと高めた。

永田氏は「U18の中では一番タフじゃないかな。体が強い。強さは一番あります」と評価する。実際、大会期間中に西の体を見ていた理学療法士からも、異変を指摘する声は一切なかった。独特の辛みがある韓国料理に佐々木らが苦戦するかたわら、西はもぐもぐと箸を進めた。身ぶり手ぶりボディーランゲージを駆使して、他国の選手とコミュニケーション。「友達多かったな、よう出来とったな、各国に」と永田氏は笑いながら振り返る。西がホームランを打った南アフリカの投手も友達の1人だった。

異国での大奮闘。疲れがたまってもおかしくない。それでも西は生き生きとした表情を浮かべていた。「ピッチングだけに集中してやろうと思っていた。レベルの高い集団で野球をやるのがすごく楽しくて、楽しみながら出来たんで本当に、いつになく表情が良かったんだと思います」。

誰もが認める根っからの野球少年。西の野球人生は1枚のファクスから始まった。

◆西純矢(にし・じゅんや)2001年(平13)9月13日生まれ、広島県出身。小学2年から鈴が峰レッズで軟式野球を始め、阿品台中ではヤングひろしまに所属。中学3年夏に全国優勝。同3年時にNOMOジャパンに選出された。創志学園では1年春からベンチ入りし、2年春から背番号1を背負う。2年夏に甲子園出場を果たし、1回戦で16奪三振完封を果たすなど活躍。最速は154キロ。遠投120メートル。50メートル走5秒9。184センチ、88キロ。右投げ右打ち。

◆一以貫之とは…「一を以(もっ)て之(これ)を貫く」とも読む。論語の里仁(りじん)編にある言葉。ひとつの思いを変わらずに貫き通すこと。