阪神大山悠輔内野手(27)は22年、「打点の鬼」になる。背番号3の進化を追う日刊スポーツ独自企画「比べるのは昨日の自分」が今年もスタート。今回のテーマは「チャンスでの心構え」だ。昨季は得点圏打率2割5厘と勝負どころで本来の力を出し切れず、チームは首位ヤクルトにゲーム差なしの2位どまり。悲願のV奪回へ、主砲はマインドチェンジを試みていた。【取材・構成=佐井陽介】

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22年虎物語は激動の幕開けだった。キャンプイン前日の1月31日、矢野監督が今季限りでの退任を表明。大山は指揮官の決意を感じ取り、心を奮い立たせた。

「もちろんビックリしました。でも、やることは一緒。優勝に向けてやるという思いは全員が持っていることなので。監督がラスト1年と覚悟を決めた。その覚悟に選手が負けないようにしたい。プレーするのは選手なのだから、監督よりも僕らがもっと前に行かないといけない」

悲願のV奪回へ、主砲は本来の勝負強さを取り戻そうと、もう走り始めている。昨季の得点圏打率は2割5厘。「チャンスで打てていないのは分かっている」。課題克服へ重視するポイントは「心の余裕」だ。

「誰が見てもそうですけど、僕はチャンスで回ってくる場面がすごく多い。そこをいい意味でプラスに考えるというか…。『うわっチャンスだ』じゃなくて『ここで打ったらヒーローになれる、成績も上がって給料も増える』に。いい意味で余裕を持つためにも、引き出しを増やしたいと思っています。もちろん、チャンスでホームランを打てばそれだけ得点が入る。でも確率でいえば、そこまで簡単なことではない。でも犠牲フライだったり、場面によっては内野ゴロでも1点は入る。今まで以上にそういった引き出しを増やせば、もっと心の余裕が出てくると思うんです」

昨季はセ・リーグ最多タイの7犠飛を記録しながら、129試合出場で71打点。116試合出場で85打点だった20年を思い返せば、満足できる数字ではない。リーグ1位の巨人岡本和は113打点。ヤクルト村上は112打点。ライバルたちに水をあけられた悔しさを胸に、キャンプでは「内野ゴロを打つ練習」にも取り組んだという。

「マシンだったり打撃投手が投げてくれるボールは打たせてくれる練習なので、相手が抑えにくる試合とはどうしても違いがある。でも、まずはフリー打撃から意識して、犠牲フライや内野ゴロを打つ練習をしています。僕の場合、1死一、三塁だったら右打者で足も速くないので併殺打になってしまう可能性がある。そうなりにくい一、二塁間の真ん中を狙ってみたり、考えながらやっています。一昨年、矢野さんから『苦しく打つ練習も時にはやらないとダメだ』と言われました。打撃練習は気持ちよく打つだけではダメ。周りの人から見たら『あいつ何やってんねん』という当たりにしても、ゴロを打とうと意図して練習しているケースもあると思います」

タイガースは昨季、前半戦から首位を独走しながら、ヤクルトにゲーム差なしの2位に終わった。「その原因が自分にもある」と責任を背負った背番号3は今季、チームを勝たせる得点に全身全霊を懸ける。

「ずっと得点圏打率、得点圏打率と言われてきた。それはどうしても目に入ってきますし、上げていきたい。でも、たとえ打率が下がっても得点は入れられる。『事起こし』というか、簡単に三振せず、なんとかバットに当てて内野ゴロを転がすだけでも違ってくる。自分の前には近本とか中野とか足の速い選手がたくさんいる。ゴロを転がせば、なんとかセーフになってくれるんじゃないかという思いもある。そういった引き出しを増やしていきたいと考えています」

キャンプを打ち上げた2月28日には沖縄の1カ月間を「100点」と自己採点した。思い返せば、1年前のキャンプ終盤は既に背中の張りに苦しんでいた。だからこそ、思う存分フルメニューをクリアできた喜びがあるのだろう。

「去年は練習をしたくてもできない時間が多くてモヤモヤしていた。今年はしっかり練習できているので、すごく充実しています」

キャンプ中のコメントを確認すると、「もっともっと」と向上心が詰まったフレーズが多く登場している。背中の張りに苦しみ続けた21年の悔しさがどれだけ大きかったのか、今更想像するまでもない。

「あと1勝のところで2位になってしまった。あそこで打っていれば優勝できたのでは、という悔しさがある。しかも去年はキャプテンという立場だったので、すごく悔しい1年だった。今年はとにかくやり返したい気持ちが強い。だから、たとえ本塁打を打ったとしても満足することなく、もっといい打ち方ができたんじゃないか、もっといい確率で打てるんじゃないかと、常に上を見てやっていこうと思っています」

貪欲に進化を図る姿勢は、打席での1球1球の待ち方からも見て取れる。キャンプ終盤の紅白戦では、得点圏に走者を置いた場面でじっくり狙い球を絞り続ける姿もあった。

「紅白戦は同じチームの投手が相手になるので参考にならない部分もあるけど、プロで5年間やってきて自分のデータも出ているので、そういうところを考えながらやっています。今まで通りにやったら、今までぐらいの結果しか出せない。もっともっとレベルアップしたいし、ワンランクツーランク、それよりも上に行きたいと思ったら、変わっていかないといけない。今までは来たボールを打つ、という感じだった。今年はまだ少しずつですけど(配球の読みも)頭に入れながらやっています。相手投手と自分の力量を考えて、次はこう来る可能性が高いんじゃないかとか、そういう考え方をしています。もちろん、それが全部正解かと言われればそうではない。難しい部分はあるけど、そういうところも考えながらやっています」

昨季は追い込まれてから外角ボールゾーンの変化球を振らされるケースも目立った。それが今春は似たようなボールにグッとこらえる打席も少なくなかった。

「今まで振ってしまっていたボールを我慢すれば、もっと成績は上がる。全部我慢することは簡単ではないですけど、我慢できる回数を増やせればと思って、1つの課題としてやっています。外角にそういうボールが来るという選択肢があることでバットを止められることもある。逆にその選択肢が全くなければ、振ってしまったりハーフスイングを取られてしまったり…それこそ周りから見たら『何やってんねん』みたいな見栄えの悪い三振もしてしまう。そういう三振を少なくしていきたいと思っていますし、少しずつでもそれができているのは良いこと。プラスに考えてやっていきたいですね」

チームを引っ張るリーダー格の1人としては、21年に1年間背負った主将という肩書を下ろして今年を迎えた。

「もちろんキャプテンじゃなくなったから何もやらないわけではない。ただ、去年はもしかしたら自分がしっかりしないという気持ちが強すぎたのかもしれません。今年はいい意味で少しだけ肩の荷が下りたような気がします。でも、その分、次は(坂本)誠志郎さんが責任を背負ってくれている。自分も経験した分、少しでも助けたいし、力になれればと思っています」

三塁からの声かけも年々増えている。今春もドラフト2位左腕の鈴木が制球に苦しみ始めると、すぐに三塁から走る場面があった。

「自分は三塁や一塁にいることが多い。投手に近い場所にいるので。特にいいことを言っているわけではないけど、『切り替えていけよ』とか『頑張れよ』とか、ちょっと声をかけるだけでも違うかもしれない。だから極力行くようにはしています。気づけば、もう僕も年齢では上から数えた方が早いぐらいになっていますからね。数年前の自分もそうでしたけど、年下の選手は声をかけに行こうと思っても、なかなか行けないもの。自分が声をかけに行って、声かけをしやすい雰囲気をつくってあげることも仕事の1つかなと思っています。去年は良いことも悪いことも経験した。まだ5年ですけど、プロで5年間やった経験はある。それを生かしていきたい」